spleen番外編15 | ナノ





spleen 番外編15(水川×里塚)

 気づいたら、里塚は保健室のベッドの上にいた。
「あ、起きた?」
「お、里塚、よかった。びっくりさせんなよ」
 養護教諭と水川がこちらを見ている。
「先輩? あ、れ? 俺……」
 水川が苦笑する。
「出会い頭にぶつかったんだよ。おまえ、吹っ飛ぶからびっくりした」
 そうだったのか、と起こしかけた体をベッドへ戻す。とても疲れていた。
「じゃあ、俺、敦に殺されるかもしれないんで、戻ります。里塚、今度またシュークリーム食べような」
 ひらっと手を振って水川が出ていく。見送ってから、礼の言葉すら言えていないことに気づいた。
「里塚君」
 養護教諭がパイプ椅子を引いて、そばに座った。体育の時間にケガをして、時おり、保健室へは来ている。白衣を着た彼は、優しげな表情を浮かべていた。
「ちょっと確認したいんだけど、体にいくつかアザがあるよね?」
「……佐村とエッチする時にできるんです。彼、激しいから」
 体にかけられている薄手の毛布を見つめながら言うと、彼が手を重ねてきた。視線を上げると、「もう一度、目を見て言える?」と問われる。
「あ、え、エッチが、は、げしく、て、っう」
 彼の手は温かい。ハンカチを差し出されて、里塚は涙を拭った。
「里塚君は佐村君のこと、好きじゃないの?」
 里塚は頷いた。
「好きじゃない。エッチ、したくない」
 彼なら理解してくれると思った。体を見て、問いかけた彼なら、信頼できると思った。優しげな表情を浮かべたまま、彼は笑う。
「だってさ、どうする?」
 保健室の扉が開く。ケータイを耳に当てていた佐村が、無表情にこちらを見ている。恐怖を通り越していた。里塚は目の前で笑っている養護教諭を見る。
「彼、いとこなんだ」
 彼は素早く里塚の両手を拘束して、ベッドの柱部分へ結びつけた。足も同じように拘束されている。里塚は自分でもよく分からない嗚咽しか漏らせなかった。
「全部、嘘だったんだ? 俺のチンコも好きって言ってたのにさ」
 口にガムテープを貼られ、佐村に何度も犯された。そばで笑いながら写真を撮っている養護教諭を見て、誰も信用してはいけないのだと思った。
 佐村のことを好きだと言えば、乱暴なことはされない。佐村は同室であることを利用して、毎晩、里塚に刷り込みをしていった。夏休み前には佐村と里塚は理想のカップルとまで言われるようになった。口数が少なくなり、あまり笑わなくなった里塚を、周囲の生徒達は佐村と付き合っているから、天狗になっているとからかった。違うと言いたいが、里塚は何も言えずに過ごした。

 夏休みに入り、大半の生徒達が帰省していた。里塚のように帰る場所がない生徒は寮に残っている。佐村も二週間はいない。彼の拘束はきつく、独占欲も大きいが、たとえば他の生徒に抱かせるようなことはしなかった。それだけが里塚にとっては救いだった。
 購買でパンを選んでいると、水川がぽんと肩を叩いてくる。家に帰省していると思っていた。
「またパン? たまには食堂、行かないか?」
 里塚は菓子パンを一つ手にして、首を横に振る。
「何か元気ない。シュークリーム、食べるか?」
 いつの間にかカゴを手にした水川が、返事も待たずにシュークリームを入れた。彼は弁当と飲み物も購入する。
「誰もいないから生徒会室に行くぞ」
 結局、菓子パンを一つだけ買った後、購買の前で待機していた水川に生徒会室まで連れていかれた。夏休み中のため、確かに誰もいない。
「先輩は帰らなくていいんですか?」
「お盆あたりに帰る」
 大きく口を開けて、弁当を頬張る水川を見て、里塚も菓子パンの袋を開けた。
「おまえ、佐村と付き合ってんのか?」
 口元に持っていったパンをテーブルへ置く。
「先輩は、誰とも付き合ってないですね。あの噂、本当なんですか?」
 刺々しい聞き方だったが、水川は気にした様子もなくこたえてくれる。
「あぁ、あの良家の息子云々? 違う、違う。確かに親はうるさいほうだけど、俺は恋愛に関して、対象を限定してるわけじゃない」
 飲み物を飲んだ水川が話を続ける。

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