spleen番外編12 | ナノ





spleen 番外編12(水川×里塚)

 会計を済ませて廊下へ出ると、うしろから水川が追いかけてくる。
「里塚、待って」
 すぐに追いついた水川が、小さな袋を差し出した。シュークリームが二つ入っている。
「見てただろ? いっこずつ食おっか?」
 にっこり笑う水川を見て、里塚は彼がどうしてもてるのかよく分かった。断る理由もなく、二人で運動場へ続く石段に座り、シュークリームを食べる。
「差し入れくらい、持ってこいよなー」
 部活動に勤しんでいる生徒達が、水川と里塚を見て叫んだ。里塚は笑いながら、シュークリームを頬張る。購買のシュークリームはカスタードと生クリームが入っているタイプのもので、里塚は特にこの生クリームが大好きだった。
 食べ終わった後、くちびるをなめていると、水川が笑い出す。
「おまえ、鼻にクリームつけてる」
 右手で鼻に触れて生クリームを取った。
「先輩、生徒会に戻らなくて大丈夫ですか?」
「あぁ、平気、平気。敦(アツシ)が仕切ってる」
 三年の副会長の名前を出して、水川は大きく笑う。購入していた食べ物を冷蔵庫に入れなければならないため、里塚は立ち上がった。
「シュークリーム、ごちそうさまでした。俺、部屋に戻りますね」
「おう。またな」
 賞味期限が迫っているプリンやゼリーと菓子パンを冷蔵庫に入れる。夜は学食で食べるより、食費が安くなる。冬は出来たての温かいものが食べたくなるが、今の時期はパンを食べたら十分、腹は満たされる。
 自分の部屋で宿題をこなしていると、ノックの音が聞こえた。里塚はプライベートな空間を重視しているが、扉はほとんど開け放している。一年の時の同室者がそうしていたからだ。
 佐村は中に入る時に必ずノックをして、こちらの返事を待ってからしか入ってこないため、眠る時以外はほとんどそのままにしていた。
「宿題?」
「うん。もうすぐ終わる」
 佐村は隣に立ち、パネルをのぞき込んできた。少し顔が近い。そう思って、佐村のほうへ視線を向けると、いきなり、体を抱き締められた。驚いて、声も出ない。里塚は密着している佐村の体へ腕を突っぱねた。
「え、さ、佐村?」
 里塚は椅子に座ったままだった。上半身をきつく抱き締めてくる佐村の力に、彼の名前を呼ぶ。
「好きだ」
 告白されているとすぐには気づかなかった。まだ同室になって二ヶ月ほどしか経っていない。佐村を恋愛対象として意識したことはなく、里塚は困り果てた。
「ごめん、俺は、まだ、そういう」
「好きって言えよ」
 苛立ちを伴う声音に、里塚は体を強張らせた。いつもの佐村ではないみたいだ。
「佐村?」
 自分と彼の胸の間で固まっている腕が動く。危険を感じて逃げようとしたら、腕をまとめられ、後頭部の髪をつかまれた。
「っ、た」
 佐村は左ひざを里塚の腹へ入れ、体重をかけてくる。当然、背中から落ちた。肩を床に打ち、腹に入ったままの彼のひざに息を詰める。何が起こっているのか、分からなくなった。痛みでにじんでいる視界に、佐村の不機嫌そうな表情が映る。
「やっ、め」
 初めてのキスはあっさりと奪われた。佐村はそのままくちびるを噛むように何度も重ねてくる。抵抗しなくては、と彼の舌を噛もうとしたら、自分の体をまたいでいる彼が不敵に笑った。
「さむ、ら……」
 振り下ろされた拳は頬ではなく、腹を殴る。佐村はずっと無言だった。暴力を振るわれたのは初めてで、里塚はただ泣くことしかできない。腹をかばうように丸くなると、髪をつかまれて、またキスをされた。彼の手が、服の間から肌を滑る。何をされるのか分からないほど、幼くはない。
「やだ、さっむ、ら、やだ、やめっ」
 アナルを解すために、佐村は指を使わなかった。勉強机に転がっていたペンを入れられて、里塚は小さな子どものように泣き叫んだ。

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