spleen番外編8 | ナノ





spleen 番外編8(志音)

 志音は明史に、どこかへ移動する時は移動する前と移動した後に必ずメールを送るように言っている。寮に帰るというメールが来てから、一時間経っても、部屋に着いたというメールが来ない。すでに生徒会は解散していて、何度めか分からないがケータイを鳴らしてみた。
「どうした?」
 剛の言葉に、志音は、「青野はどこにいる?」と尋ねる。
「ショウなら、こっちに来るところだと思うけど、あ、来た」
 生徒会室の扉が開くと、将一が中に入ってきた。
「お疲れさまです」
「青野、明史、知らない?」
 志音は立ち上がり、再度ケータイを操作する。
「明史なら、寮に戻るって言ってたけど?」
「連絡がつかない」
 将一はすぐにケータイを取り出す。
「最後に見たのは?」
「一階。生徒玄関の前で別れた」
 最後までは聞かず、志音は生徒会室を飛び出した。明史は近頃、一年の間で人気がある。いつもみたいに、告白されて足止めを食らったとか、声をかけられて立ち話をしていたとか、そういう類ならいい。そうであって欲しい。
 血相を変えて走っていた志音を呼び止めたのは、里塚だった。
「どうしたの?」
「明史、見なかった?」
 里塚は小さく笑う。
「見たよ。一時間くらい前に、ここで告白されてた。君のこと以外、絶対に好きになれないからって、断ってたけどね」
「それ、一年?」
「え、うん。一年生だった。その後、大友君、部屋に戻るって言って、寮に帰ったと思うよ……何かあった?」
 柔らかな里塚の笑みが引き、周囲を見回す。
「連絡がつかない。俺、一回、寮へ行ってみるから、先生も探して」
「分かった」
 寮まで走りながら、志音は七瀬へ連絡を入れる。七瀬は部屋にいたが、明史は戻ってきていないと言った。疑わしいのは明良だが、問い詰めたところで吐かないのは分かっている。明史に好意を持つ一年が、暴走していることも考えられた。
 志音は自分の不甲斐なさに思いきり、拳を壁にぶつける。ようやく顔を上げて、笑うようになった。ようやく明史から甘えるようになった。ようやく一緒のベッドでうなされずに眠れるようになった。
「明史……」
 定期連絡を忘れているだけだと思いたい。志音は寮へ向かう足を止め、図書館のほうへ向かおうとした。
「若宮」
 志音のことを呼び止めたのは、名前も知らない生徒だった。ただ、向かい合った瞬間、明良のそばにいる生徒だと思い出す。彼は周囲をうかがい、近くのトイレへ志音を連れ込んだ。
「明史がどこにいるか知ってる」
「どこだ?」
 あせって、彼の両肩をつかむと、彼は痛そうな顔を見せた。おどおどとしながら、「知ってるけど、教える前に約束して」と言われた。
「好きで明良のそばにいるわけじゃない。あいつはわがままで、意地悪で、俺達、親のことがあるから従ってるだけだ。だから」
「分かった。明史はどこだ?」
 志音はいずれにしても明良のことだけは許すつもりはなかった。彼の命令で仕方なく動いた生徒達に関しては、脅迫された上でのことなら、父親に頼んで親同士で何とかしてもらえるだろう。
 明史は分かっていないが、志音の父親は明史のことをとても気に入っている。明史に何かあったら、自分だけではない、家族中が動くに違いない。
「レクリエーションルームの掃除用具入れの中」
 レクリエーションルームの扉を開けて中に入る。用具入れには鍵がかかっていた。外側から開く、簡単な鍵だ。志音は中に明史がいることに気づいていた。うなされている時と同じ呼吸音が聞こえる。
「おまえ、すぐに里塚先生と水川先生、呼んできてくれ」
「う、うん」
 中にはぐったりとしている明史がいた。ガムテープを外し、目隠しを取る前に邪魔になっているヘッドフォンを外す。何を聞かされていたのかと、志音は自分の耳に当てた。おそらくいかがわしいサイトから音声データだけを編集したのか、強姦されている男の声が聞こえる。志音はヘッドフォンを思いきり、床へ投げつけた。
「明史、明史!」
 目隠しを取り、頬を軽く叩く。明史は浅く速い呼吸を繰り返していた。汗で濡れた体は小刻みに震えている。
「若宮君!」
 里塚が先に来た。すぐに反対側へひざをつき、明史の体へ触れる。
「保健室へ運ぼう」
 目を開いた明史が、大きな悲鳴を上げた。

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