spleen番外編7 | ナノ





spleen 番外編7(明史)

 二年に進級してから、将一は七組に上がった。寮の同室者は将一と仲のいい七瀬(ナナセ)に変わり、クラス内でも七瀬達と一緒に行動することが多くなった。去年の夏、図書館裏で明良達に絡まれている時、将一と一緒に助けにきてくれた一人が七瀬だった。
 七瀬は将一と見た目の雰囲気が似ている。大きな違いはさばさばしていて、男らしいところだ。彼は、たいてい友達を部屋に集めてゲームをしている。共有スペースで明史が志音とキスをして抱き合っていても、まるで何も見なかったみたいに通り過ぎていく。ただ、その後に、「志音ってキス、うまいのか?」とにやつきながら聞いてくるあたり、ちょっと将一とは違うタイプで、明史はまだまだ慣れなかった。
 将一は七組の風紀委員になり、朝当番や放課後の見回りは彼と一緒に組んでいる。明史は以前のように躍起になって、違反した生徒を手当たりしだいに処分対象にすることはなくなった。現在の風紀委員長も穏やかな人で、以前の明史を知っていて、どう接していいかのか分からず、戸惑っていた風紀委員達や明史に、これからは仲よく協力し合うことを説いてくれた。
「明史先輩!」
 中等部の時にも先輩と呼ばれることはあったが、そう呼ばれるのは何だかくすぐったい。振り返ると、一年生の生徒が立っていた。寮に戻る途中だったため、ちょうど保健室の前だ。人通りは少ない。
「どうしたの?」
 名前は分からなかった。中等部の頃に話したことがあれば、記憶の端に残っていそうだが、それもないため、きっと高等部からの入学組かもしれないと思う。
「あの」
 志音ほどではないが、背の高い彼を見上げていると、彼は視線を外した。その仕草で気づく。彼は告白する気なのだろう。春休み前から、何度か告白を受けていた。自分の雰囲気が変わったせいか、あんなことがあったにもかかわらず、三年や同学年の生徒達から、「好きだ」とか「付き合って」とか言われる。明史が志音と付き合っているのは周知の事実だが、皆、諦めずに思いを伝えてくる。
 目の前の彼も、「好きです」と言ってくれた。自分には過ぎる言葉だ。明史は礼を言って、志音と付き合っていると告げた。
「それでも、好きでいていいですか?」
 明史は拳を握る。志音は何度か告白を受けていることを知っている。彼は何も言わなかったが、志音の同室者である大河から、「そういう時はばっさりと断らねぇと」と言われた。
「あ、うん、あの、別にいいけど、でも、俺が、志音以外を好きになることは、絶対、ないから、ごめんね」
 本当に申し訳ないと思いながら言うと、彼は、「分かりました。聞いてくださってありがとうございました」と言って、去っていく。うまく断れた、と思い、安堵の溜息と吐くと、左の視界に白衣が映る。
「あ、里塚先生」
「ごめん、居合わせるつもりはなかったんだけど」
「あ、いえ、全然」
 明史は慌てて手を振った。
「大友君、もてるね。さっきのが初めてじゃないでしょう?」
「どうして分かるんですか?」
「だって、断り方が慣れてる。若宮君以外、好きになることは絶対ない、か……。彼が聞いたら喜ぶだろうね」
 ぽんぽんと頭をなでられた。
「部屋に戻るの?」
「はい」
「じゃあ、気をつけてね」
 里塚のことを見送り、明史は寮のほうへ歩き出す。だが、すぐにまた声をかけられた。明史は体が強張るのを感じる。同学年の二人は、明良の周囲にいる生徒達だ。ケータイに手をかけた。危険があった場合、短縮ダイヤルを押せば、志音につながるように登録してある。
「大友、謝りたいだけなんだ」
 明史はポケットの中で触れていたケータイをつかんだまま、二人を見つめる。
「これまでのこと、ほんとにごめん」
 頭を下げられて、明史はケータイに触れていた手を離す。
「いいよ、別に、そんな、二人が直接何かしたっん、ぅ、んっ」
 うしろから伸びてきた手に口元を押さえられた。明史は両手でその手を払おうとするが、前の二人が小型のスタンガンを明史の太股へ当てた。その瞬間、口元の拘束が消えた。
「っぐ」
 心の中で志音の名前を呼びながら、明史はその場に崩れる。レクリエーションルームの中へ引きずられた。ぐったりしている明史の両腕がうしろで縛られる。目隠しと口をガムテープで封じられ、明史は一気にパニックになった。
「おまえ、本当に目障りなんだよね。ちょっときれいだからって、自分がどういう人間か忘れてるんじゃない? 自滅すればいい」
 明良の声だった。明史の頭に何か触れる。耳に当たった感触でヘッドフォンだと分かった。脇を抱えられて、狭いところへ入れられる。鍵がかかる音で、レクリエーションルームの端にある掃除用具入れだと予想できた。
 真っ暗な視界の中で、ヘッドフォンから音が流れ出す。それは明史の声ではなかったが、そういう映像の音声だけを拾ったものだった。強姦されそうになっている男の声と彼を襲う男達の声が耳に響く。
 自分がそういう状況にいるわけではない。頭では分かっているのに、男の「助けて、やめて」という悲鳴に、明史はしだいに呼吸を速めた。

番外編6(剛) 番外編8(志音)

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