spleen番外編6 | ナノ





spleen 番外編6(剛)

 去年も生徒会執行部にいたから、年間の流れは把握していた。剛は大きく伸びをした後、「何か飲みたい人?」と声を上げる。
 今期の生徒会執行部のメンバーは去年と変わりないと言っていい。一年の生徒達は中等部の時に執行部だった子がほとんどで顔見知りだ。二年の会計は一年の時から執行部に携わっている。三年の副会長はやはり二年の時から一緒に執行部に関わった生徒で、新しく加わったのは志音だけだった。
「俺、ちょっと出てくる」
 キーボードを叩く手を止めて、志音が立ち上がった。悔しいことに、彼のほうが少しばかり背が高い。
「あぁ? おまえはさっさと生徒会便りを作って配信しろよ。愛しの明史に会いたいからってサボんな」
 志音の仕事ぶりは速く正確であり、特に支障をきたしたことはない。ただ同族嫌悪に似た感情から、どうしても素っ気なく接してしまったり、きついことを言ったりしていた。
「会長こそ、青野に会いたいからって理由つけて出ていこうとしてるだろ? しかも、ちょっとうしろめたいから、俺達にジュースおごろうとしてる」
 図星だったため、剛は無言になった。もう一人の副会長である吉田(ヨシダ)が、毎回のように間に入ってくれる。
「休憩、入れようよ? ジュース重いから、志音、半分持ってあげて、ね?」
 吉田に背中を押されて、二人同時に廊下へ出た。将一は明史と仲がいい。二人で図書館か寮にいるのは間違いない。メールを確認した志音が、「図書館」と告げる。剛も将一と頻繁にメールを送り合うが、志音の明史がどこにいるのか把握する速度は、明史にGPS装置でも付けているのではないかと思うほどだ。
「剛せんぱーい!」
 二階の渡り廊下を歩いていると、向かいから一年生の数人が手を振ってきた。同じように志音も呼ばれていたが、志音は一瞥しただけで、剛のように手を振り返すようなサービスはしない。
 志音は社交的だが、興味がない人間には見向きもしない。明史と出会ってからは特に顕著になった。相手に誤解させない意味では優しいとも言える。剛はそういえば一人、勘違いした奴がいた、と思い、志音へ話しかけた。
「おい、あのうるせぇ奴はどうした?」
 図書館の二階から下へ続く階段を降りながら、小声で尋ねる。手すりをつかんだ志音は冷めた瞳でこちらを見た。
「嵐の前の静けさみたいで、気に入らない」
 上田明良は志音と同じく二年一組に在籍していた。相変わらず、父親の部下にあたる生徒達を連れている。
「証拠や証言がないから、何もできない。でも、俺はあいつがたった一言でも明史を傷つけるようなことを言ったら、徹底的に追い詰める」
「志音」
 階下から明史が将一とともに上がってくる。志音はこちらへ向けていた冷たい瞳を、すぐに切り替えた。
「明史」
 手をつないだ二人が、階段を降りて、図書館を出ていく。
「先に購買、行ってる」
 志音はそう言った後、右を歩く明史を愛しそうに見つめて、ほほ笑んだ。しっかりとつながれている手を、明史が安堵した表情で見ている。明良のことを嵐の前の静けさと表現した。その言葉が妙に気になった。
「先輩、ジュースでも買うの?」
「あ、あぁ。悪い。一息入れることになって。まだ終わってないんだ」
 将一は笑って、「全然、大丈夫です。お疲れさまです」と言ってくれた。彼の頬には笑うとえくぼができて、より可愛さが増す。剛は思わず、その場で抱き締めた。
「わっ」
「心の休憩も取らないとなぁ」
 抱き締めたまま、階段の踊り場まで連れ込んだ。将一の背中は壁になるため、彼に逃げ場はない。人前でキスをすると怒られる。剛は誰もいないことを確かめてから、将一の頬にキスをした。
「先輩」
 咎める声すら可愛くて、今度はくちびるへキスをする。互いの部屋を行き来して、朝まで過ごすことも多くなった。彼と出会うまではそれなりに遊んでいたが、彼と出会ってからは彼以外とすることは考えられなくなった。
「今日、俺の部屋、来る?」
 唾液で濡れているくちびるをなぞって、耳元でささやく。頬を染めた将一が頷いた。
「じゃあ、頑張って早めに終わらせる」
 剛は柔らかな手を握り、購買へと向かった。

番外編5(光穂) 番外編7(明史)

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