spleen番外編5 | ナノ





spleen 番外編5(光穂)

「光穂先輩!」
 後輩達と話をしていた光穂は、明史の声に振り返る。
「ご卒業、おめでとうございます」
 卒業式が終わったばかりで、学園の正門には生徒達や卒業生の両親達があふれている。明史のそばにはいつものように志音が立っていた。光穂は明史に手を差し伸べて、握手する。
「ありがとう。明史、直からも言われたかもしれないけど、学園をよろしくね」
 志音はあれだけ興味を示さなかった生徒会執行部の次期副会長に立候補した。立候補する際にいちいち理由など聞かないが、彼の場合、明史のためだということは周知の事実だった。
「はい」
 まっすぐに顔を上げて返事をした明史は、以前よりずっと明るくなった。間接的にしか助けられなかった部分が多かったと思う。だが、自分にもこうして笑みを向けてくれるようになった明史に、光穂は同じように笑みを返した。
「あの、それで、先輩、一緒に写真を撮ってもいいですか?」
 遠慮がちに聞いた明史に、光穂はすぐに頷く。今日だけで何十回と撮っていた。皆、思い出に残るものが欲しいのだろう。志音が持っていたケータイをこちらへ向けた。
「ありがとうございます」
「志音、俺にもデータ、送ってくれる?」
「分かりました」
 明史は礼儀正しく頭を下げると、志音と手をつないで別の生徒達のところへと歩いていった。
「寂しいか?」
 隣にきた秋秀が、二人のうしろ姿を見つめながら尋ねてくる。
「うん。後輩達ともっと色々したかったなーって思うよ。あと、俺ってちゃんと生徒会長できてたのかなって」
「できてただろ。だから、後輩達がしっかり育ってる」
 光穂は正門から校舎を見上げた。それから、周囲の生徒達を見回す。十二年もの間、この学園で学んできた。答辞を読んだ時には我慢していた涙があふれそうになる。思わず、秋秀のブレザーの裾をつかんだ。
「図書館へ行こうか?」
 無言で頷いた。
「そういえば、うちの親があとで皆で食事に行こうって」
 光穂と秋秀の両親は、二人の仲を認めており、両家で食事に行くほど仲がいい。秋秀は希望通り、図書館学のある国立へ合格し、光穂は父親のすすめた私立大学に受かった。春からは二人暮らしをする予定だ。
 図書館はひっそりとしていた。カードの返却は退寮する日になるため、秋秀が図書委員室へつながる扉を開けてくれる。ソファの定位置に座ると、彼が窓を開けた。残念ながら、まだサクラは咲いていない。柔らかい風が入るのを感じて、光穂は目を閉じる。
 十二年の中で、いちばん辛かったのは中等部の頃だ。航也への恋心を押し殺すことしかできなかった。目尻に冷たい指先が触れる。
「……辛い時もあったけど、それも含めて、すごく……すごく楽しかった。俺がいっぱいいっぱいの時、いつもそばにいてくれて、ありがとう」
 目を開くと、大粒の涙が頬をつたった。この先、同じ校舎で学ぶことはない。この思い出の場所で、秋秀のひざを借りて眠ることもない。隣に座った秋秀が、力強く抱き締めてくれる。
「こっちこそありがとう。これからも、一緒なんだから、そんな悲しい顔で泣くなよ」
 扉の外で声がした。光穂は慌てて、ハンカチで涙を拭う。
「うわ、まずった」
 直の声の後、航也が、「ごめん」と謝ってくる。
「二人とも見当たらないから、きっとここだと思って。邪魔しちゃったね」
 航也の苦笑に、光穂はソファから立ち上がる。
「いいよ。ちょっと感傷的になってただけ」
 直と航也は同じ大学へ進学しているが、県外の大学のため、そう頻繁には会えなくなる。だが、二度と会えないわけではない。光穂は二人の間へ入るようにして、肩を組んだ。
「四人で写真、撮ろうよ」
「いいよー」
 将来、今日のことを思い出して、輝いていた学生時代に思いをはせる。あの頃も楽しかった、と言い合う相手がいることは素敵なことだと思った。四人で校舎を通り、正門へと向かう。まるで高等部に上がった時みたいだった。あの時もこうして、四人で長いリノリウムの廊下を歩いて、正門へ向かっていた。
 秋秀の手が右手を握る。四人で歩くその先には明るい陽射しに照らされて光る扉が見えた。

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