spleen番外編3 | ナノ





spleen 番外編3(将一)

 始業式から一週間も経てば、学園内の雰囲気は引き締まったものへと変わる。十月初旬にある文化祭の準備と並行する中間試験の範囲が、一学期と比べると広いため、授業の中で理解して応用問題を解いていくには、それなりの予習と復習が必要だった。
 将一はパネル上に並んでいる問題と解きながら、隣に座っている明史へ視線を移す。席は自由席のため、仲のいいグループで固まって座ることが多い。明史は眉間にしわを寄せて、机に映し出されたキーボードを叩いていた。
 明史は制服の半袖シャツを身につけているが、上からニットベストを着ていた。薄いグレイのベストは志音と同じものだ。二人が手をつなぎ、同じブランドのニットベストを着て始業式に来た時、将一は驚いたり、嘆いたりする他の生徒には目もくれず、二人がうまくいったことを喜んだ。
 剛との恋愛は、どうしてか分からないが、明史達がうまくいかない限りあり得ないと思っていて、それを剛にも伝えていた。そのため、しばらくして、志音と明史が付き合っているという噂を聞いた剛は、いよいよ自分達も付き合えるのではないかと期待して、部屋へやって来た。
 実際のところ、まだ付き合ってはいないが、夏休み中、色々なところへ連れていってくれた剛には魅かれている。
「青野」
「はい」
 教師は前にある大きなパネル上に、将一のパネルに入力された回答を映す。問題のこたえ合わせと解説を聞きながら、再度、明史へ視線をやった。真剣な瞳で前に出ている回答と自身の回答を見比べている。
 登校することに多少の不安を見せていた明史だが、夏休みを挟んだこともあり、面と向かって何か言ってくるような生徒はいなかった。もちろん、志音が手を回していることを将一は知っている。
 あの映像は黒岩に脅され、媚薬を打たれた上での行為だったという話を流した。それが装飾のない事実であることは、学園側が明史に対してまったく処分を下さなかったことで裏づけられた。
 黒岩は若宮財閥の手によって闇に葬られ、明史を強姦した生徒達も社会的に陽のあたる場所では生活できないとささやかれた。志音の明史に対する態度を見れば、今度、明史に何かすればどうなるのか、初等部の生徒達でも分かるだろう。それほど、志音の明史への接し方は、彼が他人へ接する時と異なっていた。

「ショウ」
 明史とともに食堂の列に並んでいたら、剛が声をかけてきた。夕食時は私服の生徒も多いが、生徒会副会長の彼は制服のままだ。
「明史、アップルパイは?」
 明史の前にいた志音が、二人分の料理をトレイに乗せていく。明史が頷くと、志音は彼の右肩を抱くようにして、額へキスを落とした。キスされた額に手を当て、明史がかすかにほほ笑む。
「こら、そこ。見つめ合うのは後にして、さっさと会計に行け」
 剛が呆れて言うと、明史が慌てた様子で頭を下げた。
「俺が生徒会長になったら、学園施設内でいちゃつき禁止っていう規則を作るかもな」
 将一は声を立てて笑ったが、剛は本気だと言い張った。会計を済ませて、明史達が座る席の隣へ移動する。
「じゃあ、俺達も学園施設内での接触禁止なんですか?」
「今、何て言った?」
 将一は小さく笑う。剛のことが好きな生徒達に悪いと思っていた。呼び出されて、色々言われるのも面倒だった。だが、好きな気持ちを隠したり、変えたりすることはできない。志音と明史を見ていると、自分もあんなふうに恋愛したいと思えるようになった。
「……ここでキスしてもいいか?」
 あせった声の剛に、将一は首を横に振る。
「学園施設内でいちゃつき禁止にするなら、まずは先輩から守らないと」
「前言撤回だ! 将一、ちょっと来い」
 手を引かれ、一度校舎から出た後、剛は壁際に将一のことを立たせた。彼は肩に手を置き、こちらをまっすぐ見ている。名前を呼ばれて、目を閉じた。触れるだけのキスの後、目を開く。剛がもう一度、目を閉じた。ついばむようなキスが繰り返される。昼休みが終わってしまうのではないかと思うほど、長い間、キスをしていた。
「せ、せんぱっい」
 くちびるが重なる寸前で、将一が声を上げると、剛はようやくキスを止めた。視界の先には柔らかな笑みを浮かべた剛がいる。
「ショウ、好きだ」
 まっすぐな言葉に、将一はただ頷いた。剛に抱き締められて、ずっとこのままでいたいと思う。目を閉じて、ぎゅっと彼を抱き締め返すと、くぅっとお腹が鳴いた。恥ずかしいが、声を立てて笑うと、彼も笑う。
「悪い。まだ食ってなかったな」
 手をつないで食堂へ戻ると、そのことに気づいた数人の生徒達が目を丸くした。これから、学園生活は騒がしくなるかもしれない。だが、将一は彼の手を離そうとは思わなかった。

番外編2(志音) 番外編4(明史)

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