spleen番外編1 | ナノ





spleen 番外編1(志音)

 裏庭にあるプールで、甥とともに遊んでいる明史を見ながら、志音はテーブルに置かれたレモネードを飲んだ。長期休暇のたびに祖父母の屋敷へ帰省する兄家族も合流して、屋敷の中は一気に騒がしくなる。
 昨日、志音達も再度こちらへ戻り、食事会に参加した。前回とは異なり、甥や姪がいたためか、明史は少し和んでいた。
 チャリティーパーティー以降、明史から触れてくることも多くなっている。いまだに同じベッドでは寝ていないが、志音にとっては大きな変化だった。
「明史君、すごくきれいだなぁ」
 長兄である理人(リヒト)がつぶやくと、次兄の蓮(レン)が頷く。
「あれで自分がきれいだって思ってないとか、天然過ぎ」
 志音は隣に座っている兄達へ視線を移す。
「そうだろ? 明史は俺にとって完璧なパートナーなんだよ」
 身内にこそ自慢したくて言えば、二人は頷いた。
「あの子なら、兄として心配なくおまえを任せられる」
 理人の言葉に、次兄は笑い始めたが、二人とも歳の離れている自分を甘やかし、可愛がってくれる。同じように明史のことも、一人弟が増えた、とすんなり受け入れてくれた。
 家柄や容姿に魅かれ、告白をしてくる人間はたくさんいた。志音は他人に興味がないと言われているが、これまではただ、家族以外に関心がなかっただけだ。十六歳にして、自分の家族を作る計画を立てる人間は少ない。周囲が刹那的な関係を築く中、志音は自分の家族のように、たった一人を見つけて生涯の愛を誓う恋愛を貫きたいと考えていた。
 安易に告白してくる人間にこたえず、自分がそばにいたいと思う人が見つかるまでは、家族がいちばんでいい。そう思っていたが、志音もようやく特別な一人に出会えた。
 日焼け止めクリームを塗っているものの、一時間ほど経過している。
「明史、今日は陽射しがきついから、それくらいにしたらどうだ?」
 明史はプールに入り、甥達の浮輪を引いたり、押したりして遊んでいた。
「うん」
 志音が、大判のタオルを明史の背中へかけると、彼は笑みを浮かべた。礼の言葉に返事をしながら、彼の美しさを見つめる。
 切れ長の瞳は冷たい印象を受ける。だが、笑うと彼の兄である統史みたいに人懐こい表情になる。それが自分にだけ向けられているかのような、大きな優越感をもたらした。
 志音はデータベースを調べて、初等部一年からの集合写真を確認していた。初めて明史に気づいた後、自分があんなにきれいな顔だちの生徒に気づかないはずがないと思った。
 初等部の頃の明史は、やはりきれいだった。ただ表情がなく、一対一で向き合わない限りは、そこまで印象に残るような感じではなかった。中等部になると、前髪が顔にかかり、うつむき加減で写っていた。
 この間、髪を切った明史は兄達とは、ふだん通り接している。寮に入ると、女性と触れ合う機会が減るため、義理の姉達と話す時はひどく緊張するらしい。
「明史君、ありがとう」
 面倒を見てくれて、と続いた言葉に明史は赤くなり、大きく首を横に振った。
「クッキーがあるから、手を洗ってらっしゃい」
 女性陣は室内でアイスレモンティーを飲んでいた。明史はゆりかごの中で眠っている姪をのぞき込む。彼はほほ笑んだ後、廊下から二階へと上がっていった。
「あなた達、今日はどうするの? 土田へ帰る?」
 志音がこたえる前に、甥達が、「ダメ!」と叫んだ。
「もっとめーくんと遊ぶっ」
 来年から学園へ入学予定の甥は、まだ洗っていない手でクッキーをつかんで言った。
「こら。手を洗ってきなさい」
 義理の姉が怒ると、甥はむすっとしながら、バスルームへ向かう。九十になる祖母が笑った。
「志音、強力なライバルができたかもしれんねぇ」
 志音は苦笑しながらも、内心では絶対に土田へ戻ろうと思った。クッキーを一枚手にして二階へ上がると、笑い声が聞こえてくる。明史のひざに座った甥が、甘えるように彼に手を伸ばしていた。
「明史、俺以外の男をひざに乗せるな」
 甥の脇へ手を入れて、「下へ行け、ガキ」と小さく告げる。甥は腕を組んで舌を出してから、扉へ向かった。
「志音のこと、ひざに乗せたら、俺、潰れちゃうよ」
 そういう意味ではない、と言いたかったが、志音は何だかどうでもよくなり、まだ上半身を露出している彼の隣に座った。
「俺達の部屋に帰ろう?」
 クッキーを口元へ差し出すと、明史は笑みを浮かべて頷いた。

88 番外編2(志音)

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