vanish22 | ナノ





vanish22

 外は晴れていた。道なりに行くとコンビニが見える。中に入って時計を見ると、昼前だった。要司が缶コーヒーを三つと、パンをかごに入れていく。
「何かいるなら、入れろ」
 慎也は昨日の昼から何も食べていないことを思い出して、かごの中にチョコレートを入れた。会計の時に財布を出そうとしたが、要司がタバコも頼んでさっさと払う。
「荷物、持ちます」
 要司は袋から缶コーヒーを取り出した。
「いいよ。重くないから。これ、飲んでな」
 熱い缶コーヒーで暖を取って歩いていると、要司がこちらを見た。
「おまえ、昨日タカに何もされなかったか?」
 慎也は思わず缶コーヒーを落としそうになる。
「あいつのことだから、無理やりとかないと思うけど、嫌なら嫌って言えよ」
「た、タカさんは男の人もいいんですか?」
 要司は立ち止まると、左手の公園へ歩き出す。子どもが数人、母親達と遊んでいた。空いているベンチに腰を降ろした彼は、缶コーヒーを開けて一口飲む。
「俺が知る限りはどっちとも付き合ってた」
 慎也は要司のほうを向くことができない。あなたも? と聞いてしまいそうで怖かった。
「慎也はどんな子が好き?」
 袋からチョコレートを渡される。慎也はその包装をぎゅっと握って、借りている彼のジャケットのポケットへ入れた。
「……要司さんは?」
「俺? んー」
 パンを食べながら、要司が首をひねる。
「かわいい子? 容姿じゃなくて、ほら、性格がかわいい子っているだろ?」
 もう最後の一口まで小さくなったパンを、要司はぱくりと食べた。慎也はうつむいて、足元の砂を靴で擦る。
「今……彼女いるんですか?」
「いないなぁ」
 必死に聞いた慎也とは対称的に、要司は吹き出す。
「ってか、あいつらとつるんでたら、女できないな」
 視線を上げると、笑っている要司と視線が合う。慎也は瞳をそらすことができなかった。報われないと分かっていても、好きでいることは許される。
「まだしばらくはいらないけど」
 笑っていた要司の瞳が陰る。
「大事なものとか作ると、守れないんじゃないかって不安になるよな」
 大きな溜息を空へ向かって吐いた要司は、そのまま体を伸ばした。慎也は要司の言葉にタカから聞いたことを思い出す。気にかけていた子が暴行されたと言っていた。彼の不安は当然だと思う。
「もし」
 慎也の声に要司が視線だけ寄こす。
「もし、好きな子が強かったら? 守る必要ないくらい強かったら……」
 言葉にしてみて慎也は自分の浅はかな発想に自嘲しそうになる。
「そしたら、要司さんはその子のこと好きになる?」
 前提も何もない。要司が自分を好きになるはずがない。強くても弱くても、それは変わらない。泣きそうになった慎也は、缶コーヒーを開けて、それを飲んだ。元の姿勢に戻った要司が小さく笑い始める。
「おまえって頭いいのか悪いのか分かんねぇな。でも、そうだな。強いと安心するかもな」
「……うん」
「変な奴」
 要司が笑って慎也の髪を乱した。
「昨日、電話出れなくて悪かった。何か嫌なことあった? もうタカにぶちまけてすっきりした?」
 慎也が頷くと要司も頷いた。彼の指先がまだ髪をいじっている。うなじに近い髪に触れられ、慎也が体をよじらせて笑うと、彼は目を見張った。
「おまえさ……」
 要司は嬉しそうに見える。慎也は首を傾げて先を促した。
「もっと笑ったほうがいい」
 受験生に笑えなんて、ないよな。そう続けた要司が立ち上がる。
「帰るか」
 慎也はふわふわとした気分で要司の後をついて行った。この位置でいいと思った。この距離でいいと慎也は彼の背中を追いかけた。

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