vanish19 | ナノ





vanish19

 待ち合わせた駅前のコンビニで突っ立っていると、大きなエンジン音を響かせながら、タカが中型バイクに乗ってきた。彼はコンビニの駐車場に入ると、一度エンジンを切ってヘルメットを取った。
「悪い。中に入って待って……れば」
 いいのに、と続けたかったのだろうが、タカは慎也の顔を見て黙った。
「とりあえず、乗って」
 タカはヘルメットホルダーからヘルメットを外して、慎也に渡す。受け取った慎也はヘルメットをかぶると、タカのうしろへ座った。バイクに乗ることはもちろん初めてで、自転車でさえ二人乗りしたことがない慎也には、振り落とされないかと恐怖を感じた。
「うしろのパイプ持つか、俺の腰に手、回して!」
 タカが大声で言った。慎也は彼の体に触れることに遠慮して、手をうしろへ回してみたものの、バランスが保てず、すぐに腰へ手を伸ばす。エンジンがかかった後、バイクは冷たい風を切りながら駐車場を出た。顔に当たる風は痛いが、疾走感は慎也の心を浮上させる。
「すごい。タカさん、こんな大きなバイクに乗れるんですね」
 駐輪場へ駐車したバイクを見ながら、慎也が感心して言うと、タカは笑った。
「おまえも免許、取ってみれば? 運転するほうがうしろに座ってるのと違って楽しいぞ」
 タカはヘルメットを二つ持って、慎也について来るよう促した。マンションの中へ入り、狭いエレベーターに乗って五階で降りる。
「一人暮らしなんですか?」
「そう。要司が寝てるけど、ほら、入って」
 先に部屋へ入るように言われて、慎也は玄関で靴を脱いだ。確かに要司の運動靴がある。タカの部屋はキッチンとリビングが合わせて八畳くらいの広さで、奥に寝室があるようだ。要司はおそらく奥で寝ているんだろう。
「狭いけど、適当に座って」
 テーブルの上にはつまみの類と缶ビールが並んでいた。
「要司は潰れて、寝てる」
 タカが奥の部屋へ視線だけやった。慎也は電気カーペットの上に座った。タカのことは苦手じゃない。むしろ好感を持っている。年齢は知らないが、おそらく要司達の中では最年長だと思う。
 タカはわざわざ温かいコーヒーを用意してくれた。
「うわー、ミルク切らしてる。ごめん、砂糖だけでいい?」
「あ、俺、ブラックで飲めます」
「そうなの? 甘党なんだと思ってた」
 慎也は礼を言ってコーヒーを受け取り、息を吹きかけて一口飲む。
「大丈夫か?」
 タカの視線を顔に感じて、慎也はうつむいた。要司が寝ていてよかった。
「親とけんかでもした?」
 慎也が軽く頷くと、タカは、「そうか」と一言だけ言った。気まずい沈黙ではなかった。自分にも、こうして家以外の場所で落ち着ける場所があって嬉しかった。そして、当然のように部屋へ招いてくれたタカに感謝した。
「試験、もうすぐだな」
「はい」
「風邪とか、気をつけろよ」
「はい」
 コーヒーを飲みながら、二人はぽつりぽつりと話をした。タカも要司と同じ事務所で働いている。彼は足場を組むとび職人で、父親が工務店をしており、中学卒業と同時にとび職の世界に入ったそうだ。
「要司もとびがいいって、うちに来てたんだけど、親父さんがあいつは左官向きだって、コテ握らせたんだ」
 タカが懐かしそうに目を細めて、タバコを取り出す。
「あいつが高校、退学になった理由って誰かから聞いたか?」
 慎也は首を横に振る。タカは煙を吐き出すと、飲みかけの缶ビールを飲んだ。
「要司は別に族を作ってたわけじゃないけど、色々うるさい奴らもいてさ、暴力沙汰にまでなって辞めるはめになったんだ」

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