vanish15 | ナノ





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 飴をなめながら、慎也はベッドの上に寝転んでいた。体を横にしているとそのまま眠りそうになる。飴を噛み砕いた後、濡れた目尻を拭った。
 ティッシュで自分の股の間とアナルの近くをきれいにする。中に出された葵のものすべてを出すことはできないが、とりあえず下着を身につけて長袖のTシャツとトレパンをはいた。
 財布の中から名刺を取り出す。慎也はしばらくの間、名刺に触れ、財布にしまってから、ベッドへ潜り込んだ。
 携帯電話のアラームは四時にしてある。シャワーを浴びた後の時間で、慎也は英単語を覚えていった。
 大学に受かれば、葵の偏愛から逃れられるはずだ。実際にはそんなことはないと分かっていたが、慎也はそう思わずにはいられなかった。
 心の均衡を保つため、慎也は左腕を刻み始めた。最初は物に当たっていた。ペットボトルを潰したり、学校の備品を壊したりした。
 そのうち馬鹿げていることに気づいて、学校の購買でカッターナイフを買った。その刃先を葵に向けたいことに気づいて、慎也は自分の中にある沈澱した汚物の存在を知った。
 馬鹿げているから、やめたんじゃない。それだと足りないから、やめた。慎也はセックスの後、筆箱の中からカッターナイフを取り出した。
 軽く引っかくと、薄皮が白い突起へ変わる。注射器の先端を刺すように、ナイフを肌へ立てた。ゆっくりと力を込めると、赤い血が見えた。手の平を握り締めて、前腕の柔らかな部分に線を引く。
 痛みは救いだと思えた。慎也は小さな赤い玉を見つめて、ひりひりと痛む左腕に安堵を感じた。

 日曜は午前中に塾の自習室で勉強して、午後からは要司達のところへ行った。葵にばれても平気だった。今の慎也にはカッターナイフがある。どんなにひどいことをされても、痛みという罰を与えれば、要司を思うことが許される気がした。

 塾から二十分ほど歩いて、アパートが立ち並ぶ私道に入る。要司はもうすぐ二階建ての家に引っ越す予定だ。その家も近所にあった。
 築五十年以上の古い家は手直しが必要だが、三人くらいは余裕で住めるほど広く、家賃は破格の安さだった。
 要司の知り合いのお祖母さんが、誰も住まないと荒れるから、と売ろうとしたが、家じたいが古く、土地にも価値がないため、売れなかった。賃貸にしてもまったく借り手がなく、それを聞いた要司が改装していいなら、と借りた。
 お祖母さんは改装を快く承諾して、さらに敷金も礼金も不要にしてくれた。秋の終わりから始まった改装は、毎週土曜と日曜を使って進められている。
 慎也はほとんど見ているだけだが、勉強の息抜きにはちょうどよかった。要司や彼の仲間達の話を聞いているだけで、解放された気分になる。
 慎也が何より嬉しかったのは、そこに居場所があったことだ。少しも手伝っていないのに、要司は慎也のために軍手を用意して、間違えないように名前を書いてくれた。
 慎也がどれくらい嬉しかったか、要司にはきっと分からない。彼の些細な気づかいで自分の存在意義を見出だせる。
「なぁ、今日、ファミレス行こうぜ」
 誰かが言うと、皆が返事をする。こういう時、要司は行ったり行かなかったり、その時々だが、今日は行くらしい。
「慎也も行こう?」
 ごみを集めていた慎也は、素直に持ち合わせがないと言った。
「おごるよ」
 要司が笑って、ウォレットチェーンを指に引っかける。
「俺、一昨日が給料日。あと一時間くらいなら、大丈夫だろ?」
 慎也は袖を引っ張り、左手首にある腕時計を見た。確かに帰る時間まで一時間ほどある。

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