vanish13 | ナノ





vanish13

「受験生だしな。俺みたいないい加減な人間とは付き合うなって言われたんだろ?」
 分かっている、と頷いた要司は話を続ける。
「さっき息が苦しくなったの、あれ、過換気症候群って言うんだって。前にタカの前で同じ症状出たんだって? あいつの弟もそういうのがあるらしくてさ。あいつんち、離婚して弟は母親のほうに引き取られて、ストレスとかで過呼吸みたいになるって言ってた」
 慎也はコンビニの袋を握り締める。ストレスはたくさん抱えていた。要司がうまく勘違いしてくれてよかったと思う。葵とのことは誰にも言えない。まして、要司に知られたら、と考えるだけで胸が潰れそうだった。
「俺なんかに言われなくても分かってるだろうけど、あんまりムリすんなよ。それと、もし親に俺のこと言われてるなら、携帯は拒否ってていいから」
 幼い子どもの頭をなでるように、要司の手が慎也の髪に触れた。すがる手がこの手ならいいのに。そう考えた瞬間、慎也は涙をとめどなく流した。かすかに開いた口から嗚咽が漏れる。
「あー、ごめん。俺、泣かしたいわけじゃなくて、励ましたいんだけどな。でも、たまには泣いたほうがいいかも。おまえ、がんばり過ぎたんだよ」
 帰りたくない、と叫びたくなるのをこらえて、慎也は言った。
「っ、う、からっ、なかったら、どうしよ」
「大丈夫。絶対、受かる」
「でも、さいきっ、せっいせき、おちて……」
「いい時もあれば悪い時もあるだろ。今、悪い時なら、本番はいい時になる。自分のこと、追い詰めるな」
 涙と鼻水で要司のグレイのパーカーが汚れていく。だが、慎也は涙をとめることができなかった。ずっとこの腕に甘えていたい。かすかに香るタバコのにおいを胸いっぱいに吸い込む。
「俺も最近、あのコンビニには行ってないんだ。しんどくなったら、いつでも電話しろ、な?」
 番号は削除されている。慎也が戸惑っていると、要司は財布から名刺を取り出した。
「書くものある?」
 鞄の中からボールペンを取り出すと、要司は名刺の裏に携帯電話の番号を書いた。
「これ、親父さんの名刺なんだけど、この右下の番号は事務所につながるから、俺宛の伝言もできるし、まぁ、携帯電話はなるべく取れるようにしておく」
 名刺を見つめた後、慎也は要司を見た。はにかんだ笑顔を見せられて、慎也の胸がぎゅっと痛む。頬が熱くなるのが分かった。
「要司さん」
「ん?」
 どうして優しくしてくれるのか聞きたかったが、まるで女性が言うことのようだから、そんなふうには聞けない。葵にアナルを犯されて、それで喜びを得ている自分が、やはり同性の要司にひかれているなんておかしい気がした。あの行為を要司とならしてもいいと想像する自分に吐き気がした。
 要司が気づかってくれるのは、面倒見がいいからであって、他意はない。彼にとっては彼を慕う他の皆と同じなんだろう。
「あの、ありがとうございます」
 頭を下げて礼を言い、慎也は財布の中へ名刺を入れた。
「気をつけて帰れよ」
 慎也はもう一度、頭を下げてから、改札口へ向かった。目の周りが痛い。おそらく泣き過ぎてしまったからだ。家に着くまでに、赤みが引けばいい。
 ポケットから携帯電話を取り出した慎也は、温かい気持ちが消えていくのを実感した。いつもならすでに帰っている時間だからか、葵からの着信が入っている。数回程度ではない。
 メールを開くと、真っ白だった。最後の一通を開く。電車が揺れて、指先がボタンに当たった。改行の最後に一言だけ打ち込まれている言葉がある。
 慎也は紙のように白くなった。携帯電話をしまって財布を握り締める。慎也は震えていた。

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