vanish12 | ナノ





vanish12

 その日から葵は慎也のことを考えないセックスをするようになった。中出しは当然で、ローターを入れたまま、葵のペニスを受け入れることもあった。
 慎也は行為の後、音を立てないようにシャワーを使っているが、すでに何度か注意された。一日に何回もシャワーを使わないで、と義理の母親に言われて、慎也は明け方の四時頃に一度起きて、アナルをきれいにした。
 体調の悪さは日に日に顕著になり、慎也は勉強に集中することすら難しい状態になっていた。学校の授業はまだいい。
 だが、塾のほうは集中しなければ、すぐに落ちこぼれる。現に、実力テスト以降の模試では成績はかなり落ちてしまい、A大学の合格判定はいつもB以上だったのに、Dにまで下がっていた。
 合格判定がすべてではなくて、実際にD判定でも本番で点数が取れたら受かる。分かってはいるが、慎也の焦燥感は募る一方だ。模試の結果は家に送付されるため、当然、両親の知るところになる。
 慎也はA大学しか許さないと言った義理の母親の言葉を思い出した。彼女の言葉はある程度予測していた。慎也が傷ついたのは父親の言葉だった。何も言われないと思っていたのに、彼はおまえには期待していない、と言ったのだ。

 誰もいなくなった塾の教室内で、慎也は机に伏せていた。家に帰りたくない。帰らないわけにはいかないが、今夜も葵との行為があると思うとなかなか立ち上がることができない。

 塾の講師に促されて、慎也は重たい鞄を持って外へ出た。まだ何人かが立ち話をしている。
 コンビニとは反対方向へ歩く。早朝と夜は冷えるようになり、秋の終わりを感じた。コンビニ前を通っても、もう彼らはいない気がした。
「慎也!」
 懐かしい声に振り返ると、要司が手を挙げた。あいさつをするかどうか迷っていると、彼が駆けてきた。
「よかった、間に合って」
 要司の息は乱れていない。彼は小さく笑った。コンビニの袋からチョコレートを取り出す。
「お疲れ」
 差し出されたものを見つめていると、要司は封を開けた。
「ほら」
 食べるように言われて、慎也はチョコを口に入れた。甘い。涙腺が緩んだのか、視界がにじんだ。
「少しだけ、時間いいか?」
 要司は駅の方角へゆっくりと歩き出す。少し髪が伸びていたが、彼は相変わらずきれいに染めていた。毛先が揺れると、リングピアスがきらきら光る。
 慎也は要司の背中を見た。彼はグレイの厚手のパーカーを着ている。衣服の所々に塗料が飛んでいた。
「携帯、見つかった?」
 携帯電話は落としたと嘘をついていた。慎也は視線を泳がせる。すると、要司はガードレールに体をあずけて、慎也を見つめた。
「やっぱ、俺みたいな人間とは話したくなかった?」
 要司は苦笑した後、性急な手つきでタバコを取り出した。
「ち、違います」
 慎也は視線を落として告げた。要司ともっと親しくなりたい。だが、葵に知られたら何をされるか分からない。ぐっと胸が苦しくなる。タバコの煙を吐き出した要司が、一歩近づいた。
「どうした?」
 要司の声は動揺している。慎也は大丈夫だと言いたかったが、それは叶わず、その場にしゃがみ込んだ。いつかと同じように、コンビニの袋が差し出され、慎也は吸って吐いてを繰り返す。
 要司は慎也の呼吸が乱れた瞬間、すぐにタバコの火を消していた。慎也が落ち着くのを待ってから、駅前のバス停にあるベンチへ慎也を座らせる。
「おまえがよくても、おまえの家族はよく思ってないんだろう?」
 慎也が弾かれたように顔を上げると、要司が隣に座った。

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