vanish11 | ナノ





vanish11

「やっべ、倒れたぞ。何もしてねぇのに!」
「要司さん、呼ぶ?」
 複数の声が遠くから聞こえる。慎也は手をついて起き上がり、砂を払った。
「ご、ごめんなさい。俺、あの」
 呼吸が乱れて、そのまま、口に手を当てた。胸が圧迫されている感じがした。しゃがみ込んでうつむくと、大粒の涙が落ちていく。過呼吸の症状だと気づいた一人が、コンビニの袋を慎也の鼻と口に当てた。
「落ち着け。ゆっくり吸って、吐け」
 背中に温かい手がそえられた。あふれていた涙がとまる。慎也はようやく袋を外した。
「あ、ありがと」
 涙を拭いて、立ち上がり、慎也は彼らに頭を下げた。
「あの、携帯は落としちゃって、まだ見つかってなくて、その……」
 しどろもどろになりながら、誰も傷つかない嘘を考えた。
「塾も忙しくて、コンビニに寄る時間もなくて。要司さんには悪いことしたって思ってます。せっかく誘ってくれたのに。皆さんにも失礼なことしてたなら、俺、そういうの気づかなくて、本当にごめんなさい」
 もう一度、頭を下げてから、慎也は踵を返す。一時間目は遅刻で、内申には響くが、推薦なしで葵と同じ国立のA大学のみ受験の慎也には、あまり関係ない。
「慎也」
 袋を貸してくれた青年が、難しい顔をして呼び止めた。慎也は要司以外に名前で呼ばれることにくすぐったさを感じて視線をそらす。
「さっきの……」
 彼は慎也に近づき、誰にも聞こえないように小さな声で聞いた。
「何かすっげぇストレス、感じてることとかある?」
 慎也は彼を一瞬見たが、すぐに視線をそらして笑った。
「あ、うん……受験勉強でストレス、ひどいかも。落ちたらどうしようって思うと、めまいとかすることもあるし……」
「本当に? 俺らとしゃべってた時、受験のこと、考えてたのか? おまえのさっきの症状……」
 実際には違ったが、慎也には話せるわけがなかった。慎也は彼の言葉を遮る。
「あ、俺、もう行きます」
 彼の視線から逃れるように、慎也は通学路に向かって走った。今日のことが葵にばれることはないだろう。だが、慎也は一日中、上の空で授業を聞き、葵のひどい仕打ちを思い出しては身を震わせた。

 葵のペニスに吸いつくようにして、精液を飲み込んだ慎也は、さっき食べた弁当の中身を吐きそうになった。その気持ち悪さをこらえて、舌できれいになめていると、葵の指先が優しく髪をいじる。彼の機嫌は悪くない。
 今朝のことがばれなくてよかったと、慎也は胸をなで下ろした。葵のペニスをきれいにした後、慎也は足を開き、自分で準備したアナルを見せる。
「っ、葵の……」
 言え、と命令された言葉を音にするだけだ。だが、慎也にとって卑猥な言葉を口にすることは容易なことではなく、葵の望む通りにはいかないことが多い。
「葵の……」
「慎也は俺のこと好きなんだろう?」
 好きじゃない。慎也はうつむいて、シーツを握り締める。憎むほどに嫌いではないが、好きという感情を抱く相手ではなかった。
 慎也はセックスを強要されていると思っている。葵はそうは思っていない。本当のことを告げたら、どうなるんだろう。慎也にはそんな勇気はない。
「だんまり、か。慎也」
 あごをつかまれた。見上げた視線の先で、葵が笑う。何かを企んでいるような、ぞっとする笑みだった。
「俺しかいないってこと、分からせてやろう」
 葵は乱暴に慎也のアナルへペニスを突っ込み、終始彼のペースで腰を動かした。中に出されて、そのまま放置される。慎也の涙がシーツを濡らした。

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