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vanish7

 夏休み目前の七月、慎也はコンビニへ入る前に彼のそばへ近寄った。
「お、慎也。お疲れ」
 車止めに座っていた彼が立ち上がる。あれから毎日少しずつ言葉を交わし、今は知り合いと言える程度まで仲良くなった。
 彼の名前は、牧要司(マキヨウジ)といい、この近所に住み、左官の仕事で生計を立てている。要司はここが地元らしく、このコンビニへ来たのはもう一つのコンビニが潰れたかららしい。
 要司と一緒にたむろしているのは、同じ現場の仲間だったり、彼自身の友達だった。慎也は要司以外とあまり話さなかったが、朝方、駅の周辺ですれ違うことがあれば、皆、礼儀正しくあいさつしてくれる。
「今日もチョコか?」
「はい」
 コンビニの中へ入って買い物を済ませ、ごみ箱の前で包装を破って食べる。最近、以前より帰りが遅いと思われているようだが、義理の母親にも葵にも何も言われていない。
「大変だな。夏休みも塾、あるんだろ?」
 髪をかき上げた要司が、慎也の隣へ来た。タバコを指に挟んで、ポケットからライターを取り出す。
「学校も入試対策するから、塾と学校、両方あるんです」
 煙を吐き出した要司は苦い顔をした。
「マジ? さすが、清陽は違うなぁ」
 清陽というのは慎也が通っている高校だ。
「俺、東だもん。たぶん、卒業してても、大学進学とかムリだっただろうなぁ」
 東高校はこの地域で有名な不良が集まる学校で、名前さえ書けば受かると言われている。慎也は要司が東高校を退学になったという話を、ここにいる彼の仲間から聞いたことがあった。退学の理由までは聞いていないが、彼は東高校で一目置かれており、この地域の不良達は皆、彼の名前を知っているくらい有名らしい。
「でも、清陽にもおまえみたいないい奴がいるんだな。俺らの時はお互いシカトっていうか、生きてる世界が違ってた」
 要司はタバコをくちびるで挟み、右手でぽんと慎也の頭をなでた。彼が学生だったのはもう四年も前の話らしい。十六で退学になったと聞いていた。偏差値で友達を選ぶのはナンセンスだと思う。慎也は彼にほほ笑みかけた。
 ここにいる時だけは心から安心できる。何にも怯えず、将来への不安も忘れていられる。
「あ、そーだ」
 要司がだぶついたズボンの太股あたりについたポケットから携帯電話を出す。
「番号とアドレス、交換しとくか? 俺、だいたい土日は時間あるから、夏休みの間、息抜きしたくなったら連絡しろよ」
 慎也は勢いよく頷き、自分の携帯電話を取り出した。帰り道、何度も何度もディスプレイを見た。家族以外にも中学校の友達の情報をちゃんと登録していたのに、削除されていた。誰がしたのか分からない。いや、分かっているが、確認するのが怖い。
 慎也の携帯電話は、いつの間にか登録以外の着信はすべて拒否設定になっていた。気づいて解除した時にはもう、中学校の友達から連絡が入ることはなかった。高校には友達がいない。要司の連絡先は『友達』とカテゴライズした電話帳のいちばん上にあった。
 葵じゃないと思いたい。慎也は携帯電話に暗証番号を設定する。携帯電話をポケットへしまい、家の鍵を取り出した。ポケットの中で携帯電話が震える。メールが届いていた。携帯電話を操作して、要司からのメールを開く。
「……あんまり根、つめんな。早く寝ろよ」
 口にして、そのまま携帯電話を胸に抱く。目を閉じたら、ぽんと頭をなでられている気分になった。

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