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vanish6

 慎也の通う高校で、国公立や有名私大への進学を目指す生徒達は、慎也と同じく学校から近い有名な進学塾へ通っている。一年生の頃から顔見知りの生徒達は、一時期は同じ方向を目指す者として仲間に入れてくれようとしていたが、一年生の頃の慎也は学校どころではなかった。
 葵は高校の入学式の日も慎也を犯した。あんな高校の入学式には行けないと言った義理の母親はもちろん来なくて、父親はおそらく入学式の日さえ知らなかった。葵だけが保護者席にいて、真新しい制服に慣れないまま校門を出ると、義兄はほほ笑んで腕を引いた。
 部屋で制服を脱がされて、入学祝いだと言った葵の手にはローターがあった。最初みたいにひどい抱かれ方ならよかった。だが、慎也はもう前立腺をいじられる快感を覚えていた。
 嫌なのに感じる自分を嫌悪している。誰にも言えないうしろめたい行為は、慎也の心の底によどんだ気持ちを溜めさせた。

 塾が終わった後、塾の前でたむろしている生徒達を避けて、慎也はコンビニへ向かう。金髪の彼が仲間達と談笑していた。彼はいつもグレイ系の作業服だったり、ニッカポッカをはいていたりしていて、いかにも現場で働いていますという雰囲気だった。
 きっと年上なんだろうな、と慎也は黄色いタオルを首に巻きつけている彼を横目にコンビニへ入る。
「あ、俺、タバコ切れてる」
 彼が立ち上がる。
「俺も俺も」
「ばぁか、自分で買え」
 コンビニのガラスドアに彼の姿が映った。慎也よりも五センチほど背が高い。慎也の背は同年代に比べるとかなり低いから、彼もそんなに高くはないようだ。彼は慎也のうしろに続く形で入ってくる。
 慎也はいつもようにチョコレートが並ぶ棚を見にいく。彼はレジでタバコを買うのかと思っていたら、すぐ横で新商品のポップがついた商品を手にしている。かすかな汗くささに、慎也は変な気分になった。ちらりと彼を見ると、彼もこちらを見ている。初めて近くで見たが、彼は人懐こい笑みを浮かべていた。
「どーも」
 慎也は彼からのあいさつに軽く会釈する。
「いつもこのチョコ、買ってるよな……これ、うまい?」
「あ、はい」
 彼の手が新商品から、その下の棚にあるスティックチョコレートを取った。
「んー、じゃ、俺も買お」
 彼は一つ手に取り、レジへ向かう。慎也も一つ手に取り、彼の横のレジで会計を済ませた。タバコも買った彼は、コンビニの外にある灰殻入れのそばでタバコを吸いはじめる。彼の仲間が声をかけると、彼は苦笑いをして、タバコを恵んでやった。
 初めて近くで見て、言葉を交わした。彼の笑みや声やにおいが頭の中で明確な映像になる。慎也は彼を意識している自分にどきどきしていた。不安からじゃなくて、期待している。彼ともっと話してみたいと思っている自分がいる。

 玄関に葵の靴がないことに安堵して、慎也は素早く二階へ上がった。コンビニの袋からチョコレートを取り出して、ベッドに座って食べた。甘くておいしい。彼は明日もいるだろうか。
 あのコンビニで見かけるようになったのは、二年の終わり頃からだ。きっとあの近くの現場で働いているか、あの辺りに住んでいるんだろう。食べ終わった後、ころりと横になり、慎也は目を閉じた。疲労で限界の体はそのまま眠ろうとする。慎也は少しだけ、と思いながら、夢の世界に入った。

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