vanish2 | ナノ





vanish2

 慎也はテーブルの上にあるバナナを一本だけ持って、二階へ上がった。帰ってきてすることは決まっている。塾の宿題だ。滑り止めで受けていた私立高校では、それなりに上位の成績をキープしている。
 二年の時、夏休み明けの実力テストで校内トップを取った。慎也はほんの少しだけ期待していた。だが、義理の母親は慎也の通う高校でトップなんて、葵の通った高校ではいちばん下のレベルにも及ばないと言った。
 慎也は手を止める。あの時、成績表を持っていった慎也に、父親は、「疲れているから、後にしてくれ」と言った。仕方なく父親の書斎に入り、テーブルの上に成績表を置いて出たが、あの後、彼が見てくれたかどうかは分からない。
 十二時近くになり、慎也は物音を立てないように階下へ行った。シャワーを浴びて、部屋へ戻る。まだ葵には会っていないが、靴があったから帰ってきていることは確かだ。それが当たり前のように、慎也はシャワーを使ってアナルを洗浄しておいた。
 部屋に戻り、明日の準備をしていると、ノックもなしに葵が入ってくる。Tシャツにジーンズだけの簡単な格好だが、彼は人目を引く。大きな瞳なのに、少し釣り上がった目尻と眉が、彼の印象をシャープなものに変えている。いやらしくない程度に染められた茶髪が電気の下で明るくなった。
「もう宿題、終わったのか?」
 慎也が頷くと、葵はベッドに腰を降ろした。目ざとくごみ箱の中にあるバナナの皮を見つけて、彼は小さく溜息を吐いた。
「母さん、また用意してなかった?」
 慎也は困惑し、視線を泳がせる。高校受験に失敗して、途方に暮れていた慎也を慰めてくれたのは義兄である葵だった。だが、葵の慰め方は決して慎也が望んだものではない。
 黙っていると、葵の手が伸びてくる。彼がもっと嫌なタイプであれば、慎也のジレンマはもう少し小さいものになったに違いない。だが、彼の狂気的な優しさは、慎也をより孤独に陥らせた。
 パジャマ代わりのルームウェアを脱がされ、ベッドへ押し倒される。抵抗らしい抵抗を、慎也は最初に犯されて以来、したことがない。殴られるのは痛くて、言葉で伝えても聞く耳を持ってくれない。この二年ほどで慎也が学んだのはただ大人しくしていることだった。
「少しくらい、声、聞かせて」
 くちびるを噛んでいた慎也は、長い指がジェルをまとってアナルへ侵入する感覚に、こらえていた声と涙を出した。何度されても、どんな快感が待っていても、慎也の心は葵のことを受け入れていない。
「っあ、やぁ、……あ、アァ」
 葵の指が三本に増えて、ばらばらに動き出す。前立腺を擦られて、慎也は腰を高く突き出した。
「欲しいだろう?」
 葵が前立腺を引っかきながら、空いている左手で慎也のペニスを優しく握る。
「アっ、い、ひぃ……やっ、ほ、しいっ……が、ほしいっ」
 ぐっと押し広げて入ってきた葵のペニスに、慎也はひたすら呼吸を整えて、ベッドシーツを握り締めた。嫌なのに、肌を合わせることで感じる温もりは空洞の部分を埋めていくようだ。
 何度も何度も突かれて、慎也は声をこらえられずに、自分の手で口元を押さえた。一階で眠っている義理の母親の寝室まで聞こえることはないが、いつかばれてしまうんじゃないかという恐怖は常にあった。葵はそれを見透かしていて、時々ひどい抱き方をする。今日は一回で終わって欲しい。慎也は心からそう願った。

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