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vanish1

 あ、また来てる。
 会田慎也(アイダシンヤ)はコンビニの前でたむろしている若者達の中に、ひときわ明るい金髪の頭を見つけた。きっと髪の手入れには気をつかっているんだろう。彼の髪は傷んでいるようには見えず、外灯の光にもきらきらと輝いている。
 若者達の横を通り過ぎて、慎也はコンビニへ入る。塾帰りにここへ寄って、チョコレートを買った。コンビニを出て右へ直進すれば、すぐに駅に着く。
 電車が来るのを待ちながら、ホームでチョコレートを食べた。高校三年間、ほぼ毎日、学校帰りに塾へ通い、あのコンビニで買い物をする。高校生になったら、身長が伸びると期待していたのに、慎也の身長は伸び悩んでいた。
 学校と塾のある駅から、住宅街へと続く路線はどんな時間帯もそれなりに人が乗っている。慎也は空いている席を見つけて、そこへ座った。家に帰り着くのは二十二時を回る。シャワーを浴びて、塾の宿題をこなして、義理の兄である葵(アオイ)が望めば、彼の相手をしなければ眠らせてもらえない。
 
 慎也の父親が再婚した相手には慎也より三つ年上の子どもがいた。再婚当時、慎也は十五歳、彼は十八歳だった。最初はよかった。一人っ子で、今まで家のことを一手に引き受けてきた慎也は、家事から解放され、面倒見のいい兄を手に入れた。
 葵は市内でトップクラスの私立高校へ通っていて、それが女手一つで彼を育てた母親の誇りであるのは、まだ中学生だった慎也にも分かった。
 だから、慎也も同じ所を受験するべきだと言われて、本当は勉強なんて少しも好きじゃないのに、中学生生活の残りをすべて受験勉強に当てた。
 報われなくて、いちばんショックを受けたのは慎也だった。それなのに、新しい母親は慎也と自分の息子への扱いを変えていった。

 電車内でわずかな睡眠をとっていた慎也は、降車駅のアナウンスに急いで立ち上がり、ホームへ出る。まだ春先で夜は少し冷える。慎也はさっき夢うつつに見た夢に嫌な汗をかいていた。
 高校受験の失敗だけではなく、今の環境に至る原因はたくさんあった。その中の一つが父親だった。慎也の父親は仕事人間でなかなか家に帰ってこないことが多い。今、慎也が家の中でどんな目にあっているか、彼は知らない。
 元々、父親とはそんなに話をするほうではない。だから、義理の母親からその話を聞いた時、慎也は内心、嬉しかった。アイロンのかけ方も料理も彼女より慎也のほうがうまいと言ったらしい。

 鍵を開けて中へ入ると、リビングから話し声が聞こえてきた。葵は大学三年生になり、自宅から大学へ通っている。県外の国立に行けばよかったのに、と慎也は思っていたが、そんなことは決して口にはしない。ただいま、という家族のあいさつもしない。おかえり、という返事がなく、それでも健気に声をかけたら、話しかけないで、と言われた。
 二階の部屋へ鞄を置いて、慎也は階下のキッチンへ入る。廊下からキッチンのほうへ入ると、リビングにいる人間に会わなくて済む。
 キッチンには四人がけのテーブルがあり、その上には果物が並んでいる。義理の母親は父親が同席の時しか、慎也の分を用意してくれない。自分で作ろうとした際に、火を使うなと怒鳴られて以来、慎也はほとんどコンビニ食でしのいでいる。毎月の小遣いは食事代に消えるため、慎也には交際費が捻出できず、学校には友達と呼べる人間もいない。

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