ひみつのひ27
彼の勢いに稔が部屋の奥へ下がっていく。その左腕を智章がつかんだ。稔は彼の腕の中へと引き寄せられる。
「好きすぎて壊しちゃいそうで、こんなふうに俺を狂わせるから大嫌いなんだ」
稔は首を傾けた智章が眼鏡に当たらないように迫ってくるのを見て目を閉じた。くちびるが触れている。キスしている。震える代わりにぎゅっと拳を握った。触れるだけのキスの後も、智章の指先が稔の髪をいじった。
「分かった?」
稔は彼のほうを向いていないため、彼が今、泣きだしそうな顔をしていることは知らない。ただ智章の左手がゆっくりと背中をさすってくれるのが心地よくて、智章の胸に頭をあずけた。
「男の泣き顔なんて情けなくて見てられない」
智章の声は優しいが、言葉は冷たい。泣き声が聞こえてくると同時に、扉が閉まる。智章が扉に背中をあずけて、髪をいじっていた指先で稔のあごを上げる。
「おまえも泣いたの?」
稔は手の平で涙を拭う。
「かわいい」
「……え?」
力強く抱きしめられて、近づいてくる智章の顔に、稔はまたキスをされるのかと思い目を閉じた。だが、くちびるはくちびるに重ならず、ぬるっとしたものが頬を這う。
「っふ、藤?」
智章は稔の左頬をつたう涙をなめとった。
「おまえの泣き顔は本当にあおってるようにしか見えない」
稔は下腹部周辺に当たる智章の硬いペニスに息を飲んだ。智章が小さく笑う。
「しないよ。その傷が治ってからじゃないと、痛いだろうから」
智章は手をうしろへ回して部屋の鍵をかけた。稔の体を抱き上げてベッドへ運ぶ。そっと眼鏡を外され、ぼやけた視界で稔は智章を見上げた。
智章は制服のネクタイを外す。それから稔の頬を指の背でなでた。その指先が滑り、鎖骨へたどり着く。
「っ」
くすぐったくて目を閉じると、首に智章の吐息を感じた。智章はうなじや鎖骨を中心にキスを落とす。
「ふ、藤っ」
智章の手が服の裾から侵入し、直に肌へと触れる。稔はようやく拒絶しない自分に気づいた。智章から、好きすぎて壊しちゃいそうという言葉を聞いて、稔は怒りでも嫌悪でもない、高揚感に包まれていた。
所在なくベッドの上に放置していた左手を、智章が彼の右手で握ってくる。初夏の風に舞いあがったカーテンに稔はその感覚を思い出した。
誰に恋をしていたのか。
秘密の恋の火はつないだ手の先にいる人への思いだった。
「……稔?」
智章の指が稔の目尻からあふれる涙をすくう。目を開いて目の前の明るいブラウンの瞳を見つめた。温かい手の持ち主は秀崇だと勘違いしていた。
「藤……俺」
好きだなんておこがましくて言えない。言葉が出てこない。たくさん本を読んで色んな言葉を知っているのに、今わき上がってくる感情を伝えられない。
稔は右手を伸ばした。智章がしたように、頬に触れ、鎖骨へ指先を滑らせる。智章が目を細めて笑った。
「何? そんなにされたら我慢できなくなるよ?」
鎖骨に触れていた指先を智章のくちびるが挟む。空いている手が、稔の前をくつろげた。下着まで下ろされる。稔のペニスは熱を持ち、高く天井を向いていた。恥ずかしいと思うより先に、智章に見られているという興奮を感じる。
「っ、あっ」
智章は彼の唾液にまみれた稔の指と彼の指で、稔のペニスへ触れた。 |