ひみつのひ25 | ナノ





ひみつのひ25

「遠峰だったら、とか、関係ない……藤こそ、俺が大嫌いなんだよね?」
 そうだよ、と言われそうだった。秀崇はそれは大好きの意味だと言っていたが、肯定されるのが怖くて、稔は眼鏡を外し、涙を拭って続ける。
「ど、どうしてっ、俺、何か藤にしたの? 皆、藤に何かしただろう、藤を怒らせただろうって言ってた。セックスしなかったから? したら、もう、くさいって言われない? 痛いことされない?」
 稔は泣きじゃくり、うつむいていたため、最後の言葉を聞いた智章の表情が変わったことに気づかなかった。
「なるべ、く藤に関わらないよ、うにし、ようって思っても、藤のこと、しか考えられないっ。だって」
 稔は涙で濡れた瞳を智章へ向けた。目の前の彼しか自分を助けられる人間はいない。そのことに気づき、それこそが彼の思惑だったのかもしれないと思う。
「好き」
 短い告白に稔は嗚咽をとめた。智章はもう一度その言葉をささやく。
「好き」
 それから、くちびるを歪ませた。
「って言ったら、抱かせてくれるの? そう言ったら今までのこと全部許すの?」
 答に窮していると、智章は苦笑した。
「悪い。困らせるつもりはないから。薬、自分でしたほうがいいね。何かあったら、そこのパネルで3を押して。俺の部屋につながるから」
 稔は出ていく智章に声をかけられなかった。あんなに弱気な智章を見たのは初めてだった。
 自分で薬を塗った稔は、ベッドの中で考える。智章の好きという言葉は嫌じゃなかった。

 その後、稔は眠ってしまい、夕ご飯は食べなかった。目を覚ましたらもう日曜日の朝で、ちょうど智章が朝食を運んできた。
「うるさかった?」
 智章はすでに普段着で前髪もヘアピンでとめている。
「うううん。おはよう」
「おはよう。ここのほうが落ち着いて食べられるだろう?」
 智章はそう言って、グラスにオレンジジュースを注ぐ。ガラステーブルの上には二人分の朝食が並べられた。
 稔は顔を洗うためにシャワールームへ向かう。顔を洗った後、ベッドのそばで眼鏡を探した。
「眼鏡?」
「うん。サイドボードに置いた気がするのに、なくなっ、あ」
 右の足の裏で、ぐにゃりとフレームが曲がる感覚とぱきっというレンズの割れる音がした。
「踏んだ?」
 稔が頷くと、智章がそっと右足に触れる。
「よかった。ケガはしてない」
「でも、眼鏡……」
「買いにいく? ついでにコンタクトレンズにしたら?」
 稔はベッドに腰を下ろす。
「目に何か入れるのは違和感があるから」
「じゃあ、せめて前みたいな眼鏡にしたら?」
 その言葉に稔は軽く頷いた。稔自身、黒縁は少しダサいと思っていたからだ。
「あ」
 買い物、と思い、稔はようやく財布も携帯電話も寮に置いてきたと気づく。智章は思い当たったらしい。
「財布も携帯も秀崇にあずかってもらってるよ。扉は明日じゃないと直らないって。あと、携帯に星川からの着信がいっぱいあって、昨日、電話した」
「悠紀に?」
「今日、一緒にゲームしようって誘いたかったんだって」
「他に何か言ってた?」
「……何も」
 悠紀は稔がクラスメート達からどんな目にあっているかを話していた。だが、智章はそのことについては触れず、稔へ朝食をとるように言った。

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