ひみつのひ23 | ナノ





ひみつのひ23

 幸せな予感を思い描いて眠っていたのに、稔を起こしたのは大きな音だった。眼鏡がないからすぐには気づかなかったが、その音は智章が壁を殴った音だった。隣の秀崇が来ない。稔は窓から入ってくる光で、夕方なんだと分かった。
「ふ」
 声をかけようとしてやめたのは、自分の格好に気づいたからだ。下着だけを身につけた状態だった。クローゼットの扉が開いている。きっと智章は汗で濡れた服を替えようと思ったんだろう。稔はアナルの痛みを堪えて、机の上に置いてあった眼鏡を手にした。
 ようやくはっきりと見える。ごみ袋と対峙するよう立っている智章の背中からは何も読みとれない。それが逆に怒りの深さを強調するようで稔は怖いと思った。
 こんな時、どういう態度に出るのがいいのか、稔は知らない。傷ついた自分を見て満足したかとか、己の持つ権力がどう影響したか分かったかとか。稔はそういうことを言える人間ではなかった。
「誰だ?」
 智章の問いかけは稔を脱力させる。まるで実行犯を知らないみたいだ。だが、拳を固めて、震える彼のうしろ姿を見た時、稔は答に行きついた。
 智章がすべてを命令したわけじゃない。
 それだけで稔がどれくらい救われたか、智章には分からないだろう。
「何でそんな顔するの?」
 振り返った智章に言われて、稔は自分が笑みを浮かべていたことに気づいた。目の端には、ラップがかかった皿がある。机に置かれているそれにはトマトがのっている。食堂でかけ合ってもらってきたに違いない。
「藤が……」
 稔は眼鏡を外して、腕で涙を拭う。稔はラップをめくり、手でつかんだトマトを頬張る。飲み込んでから、ぼやける視界で智章を見上げた。
「セックスする?」
 そうすれば、もう痛いことはされない。危うい糸はほつれていた。稔は自分でもおかしいことを言ったと思い口を閉じる。
 智章の瞳が怒りで燃えていた。彼は稔の腕をつかんで、乱暴にベッドへ押さえつける。下着しか身につけていない稔は、簡単に全裸にされた。彼の手が一瞬とまる。なぜかはすぐに分かった。下着に血がついていたからだ。
 智章はベッドに座ると、稔の体を労るように抱きしめた。
「自分でやったとか?」
「っ違う!」
「じゃあ、誰がやったのか教えて?」
 稔は答えない。実際にクラスメート達以外、名前は知らなかった。智章は溜息をつくと稔をベッドへ寝かせて、かけ布団をかける。
「すぐ戻るから」
 智章はごみ袋を持って出ていく。稔は彼がどこへ行ったのか不安になった。ここは自分の部屋には違いないが、ここでひどいことをされた。一人でいるのは心細い。だが、十分と立たない間に彼は戻ってきた。
「歩ける?」
 智章はクローゼットを開けて、適当な衣服を取りだした。着ろ、と言われなくても、下着一枚しか身につけていないため、稔は智章の手から衣服を取った。
「はい」
 智章が腕を大きく広げる。何がしたいのか分からず、その様子を見た。
「歩くと痛いだろ。おんぶしたら、お尻に負担がかかりそうだから、抱っこしてあげる」
 智章はそう言うと突っ立っている稔の首から右脇に右腕を入れて、左腕は両足のひざの下へ入れた。
「っわ」
 驚いて、稔は思わず智章の首に抱きつく。小さな笑い声が耳元で聞こえた。

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