ひみつのひ22 | ナノ





ひみつのひ22

 秀崇の話だと、智章はその子のことはいじめていないことになる。その子は自分と同じ目にはあっていない。青くなっている稔に気づかず、秀崇が続ける。
「何か、最近あいつも変だし、菅谷も変だから話すけど……あいつは坂下にフラれて、本当に落ち込んでたんだ。だけど、菅谷のこと知ってからは少しずつ元気になっていった。だから、俺もおまえ達がうまくいけばいいって思ってる」
 あれだけ泣いたのに、稔は秀崇の最後の言葉に涙をこぼした。ただそばにいて、彼が幸せだったらそれでいいという稔の気持ちは、彼自身によって砕かれる。本当はそんな生温い気持ちじゃない。彼に抱かれたいと焦がれた思いは欲情だった。だが、彼は智章と自分が付き合えばいいと言っている。
「ふ、っ藤は、俺のこと、大嫌いって言った……」
 秀崇は優しい笑みを見せる。
「それは大好きの意味なんだよ、あいつにとっては。付き合いにくくて難しい相手かもしれないけど、根はいい奴だから」
 じゃあ、どうして俺はクラスメート達からくさいって言われる?
 教師から無視される?
 知らない生徒からひどい仕打ちを受ける?
 稔はしゃっくりを上げて泣いていた。それもこれも自分が智章とセックスをすればなくなるんだろうか。だが、稔にはそれが歪んだものに思えて仕方ない。そんなものが智章の欲しいものなんだろうか。
「あ、智章」
「何で泣いてるの?」
 物言いは柔らかいが、智章の視線は厳しい。稔が涙を拭うと、小さな皿に切られたトマトが並んでいた。
「これなら食べられるだろう?」
 トマトは稔の大好物だ。智章がフォークに突き刺したトマトを稔の口元へ差しだす。
「俺も朝食、行ってくる」
 秀崇はそう言って部屋を出ていった。時折、フォークが皿に当たる音だけが響く。稔は食欲なんかまったくなかったが、トマトだけはどんな時でも食べられるくらい好きだ。どうして自分の好物を智章が知っているのか気になったが、稔はそしゃくを続けた。
 皿の上のトマトを食べ切ると、智章が期限切れの風邪薬を取りだす。期限切れなのに、と思うと自然と頬が緩んだ。
「何?」
 スポーツドリンクの入ったペットボトルのキャップをひねった智章が、じっと稔を見た。
「……何でもない」
 錠剤を飲むと、稔は目を閉じた。寒い。さっきは感じなかった寒さで体が震えた。体中が痛くて、特にアナルのあたりは熱を持っているとしか思えない。寒いのに汗をかいていた。
 智章は一度部屋を出ていく。洗面所のほうから流水の音が響いた。うっすら目を開くと、濡れタオルを持った智章が、額を拭いてくれる。
「布団、秀崇のとこから持ってこようか?」
 稔は首を振った。弱っている時は誰であれ、優しく感じる。色々なことにショックを受けていた稔は、とにかく、眠ろうと目を閉じる。

 夢うつつの世界で、かけ布団の隙間から誰かが稔の手を握った。懐かしい。いつだったか、似たようなことがあった。あの時と同じだ。目を開いた時、彼はいない。握っておかなければいけない、と稔はその手を握り返した。

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