ひみつのひ21 | ナノ





ひみつのひ21

 眠っていたいのに、ノックの音が稔の意識を現実に引き戻す。秀崇ならある程度は放っておいてくれると思い、稔はベッドに身を沈めたまま動かないでいた。すると、ばんっという激しい音の後、扉が開いて、ノブや錠部の破片が部屋の中に散った。
「智章! いくら何でもやり過ぎだ」
 秀崇の声が聞こえる。稔はそっと顔を向けた。智章は寝起きのように見えた。赤いTシャツにサイズのゆったりしたパンツをはいている。髪は寝癖を直していないのか、はねていた。
 智章の手にしている袋は購買で使用されているものだ。秀崇も入ってくるのかと思ったが、彼は入ってこない。稔は腫れぼったい目を擦って、ベッドのそばまで来た智章を見上げた。
 自然と体が震える。昨日の彼のことも智章が命令したのかもしれない。アナルをすぐ使えるように、広げておけと言ったのかもしれない。そう思うと、稔は震えをとめることなんかできなかった。
「空気、悪いね」
 智章はカーテンを開き、窓を少しだけ開ける。稔は彼の一挙手一投足にびくついた。机に付属している椅子を引っ張ってきて、ベッドの脇に腰を落ち着けた智章は袋からプリンやドリンク剤を布団の上に置いた。他にも封の開いた市販の風邪薬もある。
「寒い?」
 稔は首を横に振る。
「お腹は?」
 その問いかけにも首を振った。智章はじっと稔を見つめた後、秀崇を呼ぶ。
「ちょっとだけ出るから、こいつのこと看てて」
 智章が出ていくと、稔はようやく震えをとめることができた。秀崇が椅子に座り、布団の上にあったプリンやドリンク剤をサイドボードの上に移動させてくれる。
「うわ……この風邪薬、期限切れてる」
 秀崇はそう言って笑った。少しでも自分を笑わそうとしているのだと分かった。
「ごめん、今日、高橋と出かけるんだよね?」
 かすれた声で稔が聞くと秀崇は頷く。
「でも、昼からだから。菅谷、今、何時か分かってる? まだ朝の八時だよ」
 秀崇は扉のほうを見て苦笑する。
「あいつ、菅谷がすごい熱出してるって言ったら、ベッドから飛び起きて、購買で買い物して、ダッシュで来たんだ。菅谷、鍵かけてたから、焦って、蹴って壊してさ。まぁ、でも、あいつから寮長に言えばすぐ直してもらえるから」
 稔は小さく頷いた。秀崇はどうしても智章が稔を好きだと言いたいみたいだが、稔からすれば勘違いに思えた。不意に昨日、食堂で聞いた名前を思い出す。
「坂下って誰?」
 秀崇がこちらを見た。
「俺の同室者で、智章のクラスメートだった奴。知らない? 中等部一年の終わりくらいにイギリスに引っ越したんだ」
 稔はかけ布団の端をぎゅっとつかんだ。
「……その人、ふ、藤からいじめ、られてた?」
 秀崇が吹きだす。
「え、そうだなー、坂下はいじめられてるって思ってただろうし、周りから見たらそうかな? でも、智章はそんなつもりなかったと思うよ」
 当時を思い出したのか、秀崇は楽しそうに語る。
「智章は基本的に好きな人に意地悪するから。それがちょっといき過ぎて、構い倒してたんだ。あの時の俺達ってまだ小学生みたいなもんだろ? もうさ、智章の子どもっぽさはなかった。マジで構い過ぎて嫌われて、告白してもそりゃ、フラれるって感じ」
 稔は胸から冷たくなっていくのを感じる。

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