ひみつのひ18 | ナノ





ひみつのひ18

 悠紀に見捨てられた気がした。あんなに親身になって気づかってくれる友達を、自分は蔑ろにしていると思った。
「ってか、サラダだけ?」
 一輝はミルクの入ったコーヒーを一口飲んだ。
「顔色も悪いなぁ。まだ風邪、治ってない? 明日ムリ? 困ったな。あ、そうだ! 智章に看病してもらえばいいじゃん」
 その名前に驚き、体を硬くしていると、秀崇が笑った。
「一輝。そんなまくし立てるな。菅谷が困惑してるだろう」
 ブラックコーヒーを飲んでいる秀崇は、同い年とは思えないほど落ち着いている。稔は彼に目を奪われていた。
「この前、いい感じだったもんなぁ。智章さ、坂下の時、だいぶ落ち込んでたけど、菅谷のこと好きになってからはまた浮上してきたんだよね」
「こらこら。そういうことは俺達が口にすることじゃない」
 秀崇が、ごめん、と謝ってくる。稔はわけが分からず、二人を見つめた。
「でも、智章、すごく不器用で面倒な奴だけど、菅谷には本気だと思う。あいつね、好きな子に意地悪するタイプだか、ら……菅谷?」
 秀崇達がびっくりしてこちらを見ている。太股の上に大粒の涙が落ちていた。彼らの言葉を聞いて、稔にはますます智章という人間が分からなくなる。好きなのに、こんな仕打ちをするなんて、稔には理解できない。
 おろおろとして、大丈夫かと声をかけてくれた二人に、稔はただ頷いた。
 彼のものになれという命令が、本気の告白であっても、セックスをしなかったせいでクラスメート達から冷たくされ、教師から見離され、知らない生徒達から暴行を受けている。意地悪の度を越えていた。
「菅谷?」
 以前は秀崇に呼ばれるたびに嬉しいと感じた。だが、今、そんな感情は消えている。智章は学園内で権力を持っている。このまま彼に従わないと、いつか、秀崇たちも自分の頭を便器に突っ込んだり、殴る練習や蹴りの練習と称して痛めつけるだろうか。
 稔はそんなことを考える自分を恥じてうつむいた。秀崇達はそんなことはしない。智章に会って、セックスをすると言えばいい。そうすれば、もう痛みに耐えなくていい。
「ごめん。もう大丈夫」
 稔は半分残ったサラダをトレイごと持って、返却口へ返すために立ち上がった。

 放課後、稔は智章のクラス前で彼が出てくるのを待った。先に秀崇が出てくる。
「智章?」
 頷くと、秀崇がまだ中にいる智章を呼んだ。先週の土曜日以来、彼には会っていない。
 顔を上げると、稔は息を飲んだ。智章の隣にいたのは、智章に近づくなと言った彼だ。智章の向こうから睨んでくる。
「お先」
 秀崇はおそらく隣の組にいる一輝を迎えにいったんだろう。智章は少し屈んで、稔の耳元へとくちびるを寄せる。
「その眼鏡、ダサすぎ」
 稔はにじんだ視界で智章を見上げた。今日は前髪を結んでいる。結んでいても変ではなかった。むしろ似合っている。きっと、黒縁眼鏡でも似合うだろう。何でも持っていて、何でも似合い、何でもそつなくできる。智章の好きな人間が自分だなんて、稔に信じられるはずがなかった。
「……藤」
「ん?」
「藤が全部やれって言ったの?」
 稔はどんなことをされたのか言う気はなかった。心当たりがあれば、答えは決まっている。

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