just the way you are 番外編4 | ナノ





just the way you are 番外編4

 直太の手が優しく体へ触れる。いつものように指先が体の輪郭をなぞる。キスを受けて、少し口を開くと、彼の舌が口内に入ってきた。くすぐったい感覚に身をよじる。彼は一度、くちびるを離した。シャツを脱ぎ、風呂上がりにはいているトレーニングパンツを下ろした。一緒に下着も下ろされ、現れた性器を見て、興奮している自分に気づく。夏輝は自分のズボンと下着を脱ぎ、ベッドへ座った。
 少しだけ開けていた窓を閉めた直太が、そっとベッドへ腰かけた。肩に置かれた手が熱い。その手が背中へまわり、背骨をたどって臀部へと下りていく。激しくされたことはない。毎日のようにしていれば、丁寧に解さなくても受け入れられるが、彼は時間をかけてくれる。
 仰向けになり、首筋へキスをされながら、直太の指先がアナルを解していく感覚に目を閉じる。
「ン、ぅ……ア」
 指先の刺激に声を出す。直太は心得ていると言うように、夏輝の熱を溶かし始める。我慢できずに、もう来て、と言ったら、彼は頷いて、ゆっくりをペニスをアナルへ導いた。大事にされていると分かる。彼は彼のペースで動かない。いつも夏輝を見て、合わせてくれる。
 できることは何でもすると言ったのに、直太の将来のために正しい選択をさせると言ったのに、あなたの人生に組み込んだ。同棲を反対していた彼の母親の言葉だ。もともとは夏輝が彼の両親へそう言った。彼らを裏切ることになって、夏輝は心苦しかったが、自分の人生から直太を切り離せなかった。
 同棲を反対された時、夏輝は直太の両親に土下座した。彼なしでは生きていけないと子供のように泣いて、もう帰ってくれと言われるまで、玄関を涙と鼻水で汚した。あの日以来、彼の両親には会っていない。答えはもらえなかったが、夏輝なりに考えて、直太に年末年始は必ず帰省することが同棲の条件だと伝えていた。
「夏輝先輩、考え事ですか?」
 動きをとめた直太は苦笑している。夏輝は慌てて、彼を見上げた。
「ごめん」
 嘘をついたと知られたくない。直太は一人だけの帰省を毎年、渋っていて、もし、本当のことを言えば、一緒に帰省することになるだろう。彼の両親にも、あの気まずい最後以来、顔を合わせることになる。それが嫌で、夏輝は何も言わなかった。
「なお」
 合図するように腰を少し動かすと、直太がまたゆっくりと動き始める。彼は左手だけで夏輝の背中を支えて、より深く突いてくる。夏輝が絶頂に達した後、彼も動きをとめて、息を吐いた。触れるだけのキスをして、夏輝は彼が装着してくれたコンドームを自分のペニスから外す。ティッシュに包み、彼の分と一緒にゴミ箱へ捨てた。

 カツ丼とみそ汁を持って、裏口から外へ出た。直太のための料理なら、いくらでも新しいものに挑戦できるが、自分が食べるだけなら、こだわりがない。夏輝はカツ丼を食べ始めてから、今週はずっとカツ丼だったと気づき、自嘲気味に笑った。直太からの通知を見る前に、こちらへやって来る影に視線を向ける。
 金沢かと思ったら、ちがう人だった。脇に茶封筒を抱えたスーツを着ているビジネスマンだ。夏輝がスマートフォンへ視線を戻すと、「久しぶり」と声をかけられた。先ほどのビジネスマンではない。足元の靴は少し汚れたスニーカーだ。声だけで誰か分かった。左手に持っていたカツ丼の器をそっと置いて、夏輝は無意識に左手で脇腹を押さえた。
「ニュース、見た? お金なくて困ってるんだ。あいつから金、もらったって聞いた。それ、返して欲しい」
 どうして、という疑問さえ出なかった。すべてが遮断されて、友則の声以外、聞こえない。彼の言葉に従わないといけない、という感情以外、わいてこない。彼はかすかに笑い、夏輝の左腕をつかみ、隘路へと引っ張った。
「傷痕、残った?」
 頷くと、見せて、と言われる。夏輝は短い呼吸を繰り返しながら、友則の言葉に従う。調理服のズボンのひもを緩めて、左の脇腹を見せた。彼の手が無遠慮に傷痕を押さえつける。痛い、と口にすることすらできない。
「俺がつけた傷痕……夏輝、しゃぶってくれる?」
 その泣き顔、好きだな、と続いて、夏輝は泣いていることに気づいた。
「三年生なら、就活もう始めてるか。まだデータあるんだけど」
 何のデータか、すぐに理解した。昼休みで、店の裏だということも忘れて、夏輝は地面に両膝をついた。


番外編3 番外編5

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