ひみつのひ16 | ナノ





ひみつのひ16

 階段を降りた先に、同じ学年の生徒が立っていた。うしろには何人か友達を連れている。
「菅谷?」
 頷いていないのに、ついて来て、と言われた。稔は名前も知らないその生徒のうしろを歩く。彼の友達が囲んでいて、逃げたくても逃げられなかった。校舎の裏まで行くと、くるりと彼が振り向く。
「智章に構わないで欲しいんだ」
 彼は智章の髪の色と同じブラウンに染めた髪をいじりながら、稔のことを下から上まで見つめた。
「俺は別に……」
 稔から構っているわけではなく、智章が稔に絡んでくる。それを言いたいが、それは言ってはいけない気がした。彼は大きな目を細めると小さな溜息をつく。
「自分から智章にねだったくせに」
 稔が眉を寄せると、白々しい、と彼が声を荒げた。そして、携帯電話を操作して、突きだしてくる。そこに写っているのは往来の中、智章の胸元にすがっている稔だった。あの時は必死で分からなかったが、冷静に見ると、その姿はどう見ても智章に捨てられまいと迫っている姿だ。
 稔が頬を染めると、彼が携帯電話を持った手とは逆の手を振り上げた。ぱちんと音がして、眼鏡が落ちる。右頬に手を当てると、彼は稔の眼鏡を踏んだ。
「ダサいくせにサカるのは一人前ってどんな変態だよ」
 彼の言葉にうしろにいた仲間達が笑った。稔は頬に手を当てたまま、黙ってうつむく。背筋に冷たい汗と痛みがあった。逃げたほうがいい。そう思うのに足が動かない。
 左足のすねを蹴られて、体が大きく揺らいだ。背中を蹴られて前に倒れる。一度ひざをつくと、稔は立ち上がることができない。顔と頭を守って、暴行がやむのを待った。痛くて涙があふれるが、それを気に留める者はいない。

 チャイムが五時間目が始まると告げている。稔は校舎裏に倒れたままだった。口内を切ってしまい、血の味に顔をしかめる。制服のシャツが土で汚れていた。稔は粉々になった眼鏡のフレーム部分を手に取る。昔かけていた黒縁の眼鏡が部屋にあるはずだ。
 名前も知らない彼は、最後に稔の髪をつかんで顔を上げさせた。今度、智章に近づいたら、こんなものでは済ませないと言われた。稔はもう智章と関わることはないと思っていた。だから、こんなことは今日だけだ。手で涙を拭って立ち上がる。

 購買でパンを選び、誰よりも早く大浴場へ行った。蹴られた体には痣や擦り傷ができている。稔はシャワーだけ浴びて、さっさと部屋へ戻り、パンをかじってベッドに寝転んだ。
 悠紀からのメールには風邪が治っていないようで、まだ体調が悪いと返信しておく。
 明日はいつも通りだと思っていた。席が元の位置に戻っているといいと思った。いじめなんて子どもっぽいことを続けるようには思えない。仮に智章が命じていたとしても、彼がいちばんそのことを分かるはずだ。
 稔は中等部一年の時に智章にいじめられていたという生徒のことを思い出そうとした。秀崇とは同じクラスだったが、同室の生徒は違うクラスで、どんな子だったかも分からない。彼もまたこんな目にあったのか、それともそれはただの噂だったのか、稔には確かめる術がなかった。だが、稔はどこかでまだ智章がそこまで悪い人間だとは思えない。智章は稔には冷たい態度で接してきたが、他の生徒たちには笑顔も見せ、人当たりはいい。
 悶々と考え続けた稔は顔を枕に埋めた。明日は今日とは違うと言い聞かせて眠った。

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