ひみつのひ15 | ナノ





ひみつのひ15

 月曜日の朝は今まで以上に憂うつな気分になる。扉をノックされ、返事をすると、秀崇が顔だけのぞかせた。
「大丈夫か?」
 映画から帰ってきてから昨日も何度か、秀崇は稔の部屋をのぞきに来た。体調が悪いと思われている。実際にそうだったが、稔は秀崇の手を煩わせるのが嫌で元気なふりをした。智章とのことも秘密にしておかなければならない。きれいに洗濯したネクタイをきっちりと結んだ。
「大丈夫」
「朝、食べた?」
 食欲はないと伝えると、おそらく売店で買ってきた栄養ドリンク剤を渡された。秀崇は誰にでも同じような気づかいを見せる。稔が特別なのではなく、これが秀崇にとっての普通だ。
 中等部一年の時から秀崇が気になっていた。好きになったきっかけは、三年の時の出来事だ。体育の時間に貧血を起こしてふらふらしていた稔の頭に、サッカーボールが当たってしまい、その場に倒れた。
 すぐに駆けつけてくれたのは、秀崇だった。混濁する意識の中で、彼が声をかけて、稔のことを背負って保健室まで運んでくれた。寝ている間もずっと手を握っていてくれたことを覚えている。
「遠峰」
 振り返る秀崇に稔は笑いかけた。
「ありがとう」
 秀崇を見ると、彼も微笑んでいた。彼に恋人がいるからといって、好きという感情を殺さなければいけないことはない。
 智章の、嫌いじゃなくて大嫌いだという言葉は確かに稔へ暗い影を落とした。だが、秀崇へ抱く感情がある限り、その影に覆われることはない気がした。
 ドリンク剤を飲み干した稔は、登校するために部屋を出た。

 智章の放った言葉の意味を理解したのは、教室に入ってからだ。稔の机と椅子が、掃除用具が入っているロッカーとごみ箱の前に移動していた。動かそうとすると、そのままでいいじゃん、と言われる。
「え、あ、でも……」
 稔の言葉を最後まで聞かず、クラスメートたちは嘲笑う。土曜日に智章とセックスしなかったから、こんなことになったのだろうか。だが、そんな理不尽な話はないと稔は内心、苦笑する。教師が来たら、元の位置に戻せと言われるだろう。稔の一日は楽観的に始まった。

 昼休みのチャイムが鳴ると、食堂や購買に急ぐ生徒で廊下はいっぱいだ。稔は用具入れの前から立ち上がり、携帯電話からメールを送信した。悠紀と食堂で会うのが気まずい。いつものように接する自信が稔にはなかった。ふらふらと教室を出る。誰にも会いたくなかった。

 教師が何も言わなかったことに、稔は少しだけ傷ついていた。一時間目に必要な教科書を取りだそうと机の中に手を入れた。寮と校舎は近いがために、教科書を置いて帰る生徒のほうが多い。稔もテスト前にならない限り、教科書は机に入れたままにしていた。
 入れた瞬間、冷たい感覚があり、稔は身を引いて中をのぞいた。水を入れたような形跡はないが、教科書は全部濡れていた。
 休み時間にクラスメートが教えてくれる。稔の教科書は一冊ずつトイレの便器に落としてから机の中に入れたようだ。廊下を通り職員室へ向かう教師と目を合わせた。だが、彼は視線をそらした。
 よれた教科書を机から取りだす。稔は意思に反して泣いていた。くさいと鼻をつまんで笑うクラスメートたちを稔は直視できなかった。

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