never let me go17 | ナノ





never let me go17

 何人目だ、と聞かれて、答えられなかった。喉の奥にまでくわえこんだペニスを吐き出すように頭を引くと、尋ねた男が笑った。彼は謝りながら、「これじゃ、答えられないか」、とマリウスの髪を引いた。
「ア……ア」
 火傷による右臀部の痛みは、すでに全体に広がり、マリウスは男達が押しつけた煙草の数を数えていられるような状態になかった。うしろを貫いたままの男に右臀部を平手打ちされ、悲鳴を上げた。体を大きく弓なりにそらした後、上半身から冷たい床に落ちた。
 こちらを見物している男達をすがるように見ても、彼らはただ嘲笑うだけだ。様々な液体で濡れた顔を拭い、体を起こそうと手をつくと、黒い靴がそれを阻んだ。背中を踏まれ、とつぜん温かい液体をかけられた。
 マリウスは恐怖からわなないた。頭へ放尿されたからではない。これがまだ一日目だからだ。夜道に立ち、客を取っていた時でも、死の危険を感じたことはなかった。商売をする場所を間違わないかぎり、組織からやって来る構成員達に危害を加えられることもなかった。
 マリウスの人生には、多くの嫌なことが起きた。諦めなかったのは、ただひたすら、生まれ変われると信じていたからだ。どこか別の場所で、まったく新しく始める。それだけを信じて努力した。
 その努力が足りないと言われたら、マリウスには頷くことしかできない。保護された施設での試練から逃げ出したと言われたら、うつむくことしかできない。
 どうして自分だけが、と考えることをしなかった。その答えは一つだけだからだ。おまえがそうさせる、という父親の言葉はマリウスに平凡な望みさえ抱かせなかった。
 暗闇の中でマリウスは涙を流し続けた。ディノと親密になりたいと願ったからだと思った。自分のせいで、周囲の大人達を煩わせている。そういう自分を捨てなければ、新しい自分にならなければいけなかった。
 だが、生まれ変わっても、マリウスはマリウスのままだった。

 乱暴に水槽の中へ頭を突っ込まれた。左耳が水槽の角へぶつかり、水の中に血が溶けたが、マリウスがそれに気づくことはなかった。苦しさからもがいても、男の手から逃れられず、息を吐きつくして水を飲み込んだ。肺が潰れるような痛みを感じ、視界がまばゆいくらいの光に包まれた。
「っぐ……アア」
 意識とは関係なく、肺が酸素を欲した。マリウスは自分がどこにいるのか、分からなくなっていた。だが、電子音を聞いて、何をされていたか思い出し、狂ったように体を揺らした。またがった台の上に取り付けてあるバイブが動いていた。そこから逃れようとしているわけではなかった。マリウスの手首と足首はしっかりと拘束されており、逃げることなどすでに意識していなかった。
 マリウスはひたすら腰を前へ突き出すように動かした。射精したくてたまらないのに、拘束されたペニスは勃起を維持したままだった。快感ではなくなった感覚に、マリウスは叫び声を上げながら限界点へ達し、その点を越えてもまだ終わらない絶頂を吐き出せないまま意識を飛ばした。
 そのまま放っておいて欲しかった。大量の水が口と鼻へ入ってきた。マリウスはまた願いとは裏腹に生きるために呼吸していた。髪をつたう水とは別に、涙が頬を流れていった。にじむ視界の先には、美しい男がバイブのスイッチをもてあそびながら笑っていた。
「もう死にたい?」
 意味が分からなかったが、美しい男の優しい声につられて、マリウスはただ頷いた。彼は笑って、スイッチを入れた。アナルだけではなく、尿道へ入れられていた細いチューブも動き始めた。そのチューブは射精を阻み、上下に動くだけだったが、今のマリウスの体には拷問だった。
 肺が痛んだ。このまま、この中へ沈めばいい。マリウスはあがくことをやめた。沈んでいくマリウスを引き上げてくれる腕はなく、一緒に沈んでくれる影もなかった。それでも、マリウスは自分でも不思議なほど、心の底から安堵していた。


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