never let me go16 | ナノ





never let me go16

 明かりのない真っ暗闇に目が慣れる頃になっても、マリウスは眠ることができなかった。寒さのせいではなく、寝入ろうとすると思い出すからだった。うとうとしては、目を開け、そのうち、ディノの声が聞こえてきた。大丈夫か、と尋ねてくるその声は幻だ。
 マリウスはディノの寝息を聞いた夜を描いた。深い眠りに落ちたあの夜のことだ。ずっと眠っていたいと思った。だが、彼の隣で眠るより、目覚めた彼と一緒に朝食を食べたいと考えていた。予定を聞いて、彼の希望通りの夕食を作りたいと願っていた。もっと色々なことしたいと望んでいた。
 それはもう兄弟のような情ではなかった。
 テレビからコマーシャルの音楽が聞こえてきた。おもちゃのコマーシャルだ。マリウスはその画面を見つめた。子供が父親と母親と手をつないでいた。
 どうしたの、と尋ねてきたのは、施設のカウンセラーだった。普通の家に生まれたかったという言葉を押し込めて、マリウスは職員の名前を口にした。おまえの言うことは誰も信じない、とあの職員は笑っていた。マリウスの髪をつかみ、何度も何度もマリウスの額をマットレスへ打ちつけながら、マリウス自身を粉々にした。
 カウンセラーは困惑顔で、マリウスに検査入院を勧めてきた。何もしていないのに、とマリウスはうつむいた。いつも自分のせいにされた。
「おまえが可愛いから、ここがこんなふうになったんだ」
 直接、頭に響いてくる父親の声を聞き、マリウスは目を開けた。胸を押さえながら、四つ這いになった。マフラーを握り、嘔吐を繰り返した後、マリウスはまた仰向けに転がった。
 短い息を吐き、手の甲で涙を拭っていると、突然、明かりがついた。
「怖い夢でも見たか?」
 ぞろぞろとやって来た男達に笑われながら、マリウスはもう一度、涙を拭った。照明のおかげで閉じ込められていた地下室を見ることができた。昔、ハードプレイがしたいと言った客の部屋に似ていたが、そろえてある器具や道具は、その形だけで恐怖を抱くには十分なものだった。
 服を脱がせろ、と命令された男達がそばへ来る前に、マリウスは自ら服を脱ぎ、裸になった。暴力を好む者達の前で嫌がれば、余計にあおると知っていたからだ。脱いだ衣服、とりわけマフラーを守るように部屋の端へ置き、男達の前に立つと、彼らの中の一人が煙草に火をつけた。
 男はボックスを隣の男へ回した。隣の男も煙草を一本だけ取り、次の男へ渡した。
「何人と寝たか覚えてるか?」
 男はマリウスを馬鹿にするように笑い、準備しろ、と言った。台に並ぶ潤滑ジェルや拡張用の張り型へ視線を落としたマリウスは、くちびるを噛んだ。愛するがゆえだと教えられた行為は、金を稼ぐ手段になった。
 何人と夜を共にしたか、覚えていなかった。マリウスは震える手で潤滑ジェルを手にした。地下室は寒いが、寒さから震えているわけではなかった。ニケの指先がこちらを指していた。
 変だと思っていても隠していたのは、気持ちよかったからではなかった。この暴力にさらされている、と言葉にすることが怖かったからだ。マリウスにとってセックスは、暴力そのものだった。
 そして、マリウスは長い間、その暴力を受けて当然だと思わされてきた。おまえが可愛いから、と父親は褒めていたわけではなかった。おまえが原因だから、この結果を受け入れろ、と言われ続けた。
「今からくわえる男の数は忘れないようにしてやる」
 煙を吐き出した男は、赤く光る煙草の先をマリウスの右臀部へ押しつけた。ここは父親の寝室や施設のマットレスの上と変わらなかった。誰も助けに来ないと分かっていても、マリウスは悲鳴を上げて泣き叫んだ。


15 17

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -