ひみつのひ14 | ナノ





ひみつのひ14

「本当によく泣くね。だけど、おまえの泣き顔って、あおってるようにしか見えない。ひどくして欲しいって言ってるみたいだ」
「そ、そんな」
「分かってる」
 智章はそう言うとくすっと笑った。
「稔」
 浣腸器具をおき、智章が近づいてくる。皆に見せるような優しい笑みを浮かべて、彼はまだ青くなっている稔の腹をなでた。
「痛かった? ごめんね」
 稔が驚いていると、智章は真剣な面持ちでささやいた。
「おまえのこと、好きなんだ」
 信じられなくて、稔は一歩うしろへ下がる。その体を智章の腕が囲んだ。
「俺のものになるよね?」
 そんなものは甘言でしかない。そう思うのに、稔の心はざわついていた。稔には好きな気持ちを偽ることなんてできない。だからといって、智章の告白に頷けるはずもない。
「俺……」
 稔は急いで服を着る。眼鏡をかけてから、智章を見ると、彼は稔を責めるでもなく、凝視していた。
「あーあ。やっぱりダメか」
 智章は前髪をかき上げながら笑う。
「おまえ、好きとか言われたらすぐ落ちるほうかなって思ったけど、最後の砦は守るんだね」
 その笑みはとても苦々しい。智章が分からなくて、本当に分からなくて、怖いと同時に知りたいとも思う。稔はずっと智章に嫌われているのだと思っていた。だからさっき、好きという言葉を聞いて動揺していた。嘘であったとしても、嫌悪されるよりずっといい。
「俺に抱かれないでそのドアを出たら、おまえ、後悔するよ?」
 挑むような目つきで見下ろされ、稔は息を飲み込む。だが、今ここで智章とセックスすることは、稔自身の気持ちに反することだった。
「藤……藤のこと、嫌いじゃない。でも」
「俺もおまえのこと、嫌いじゃないよ?」
 智章が微笑んだ。稔もつられて微笑もうとした時、彼が冷たく言い放った。
「大嫌いだ」
 どうして、とは聞けない。瞳を見れば、智章が本気で言っていることは分かる。その理由を聞くのは怖かった。例えばそれが謝って済むようなことならいい。だが、もしも稔自身の本質的なところ、変えられない部分のことだったら、どうしようもない。
 きっといちばんいい方法は関わらないことだ。なるべく顔を合わせないよう、視界に入らないよう、過ごすしかない。
 また泣きそうになる。弱い自分を叱咤して、稔は部屋を飛びだした。だから、その後、智章が何とつぶやいたのか知らない。


 部屋に戻った稔は大浴場が開くと同時に、シャワーを浴びた。大浴場はその名の通り、大きな風呂場だが、たいていの生徒は湯舟には入らず、個別にあるシャワーを使用する。稔も冬の時期以外はシャワーだけで済ませていた。
 食堂へ行くと、悠紀が駆けてくる。
「すがっち、メール見た?」
 見ていないことを伝えると、悠紀が肩を落とす。
「やっぱり。暇してるなら大谷の部屋でDVD見ようってメールしたんだよ」
「ごめん。全然見てなかった」
 稔は悠紀のうしろに並んで食券を買う列に並ぶ。
「またうどん?」
 心配する悠紀に稔は笑顔を見せた。今日一日の出来事が、稔の食欲を奪っている。智章のことを話すかどうか迷って、結局、稔は何も話せなかった。

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