エウロパのうみ7 | ナノ





エウロパのうみ7

 ウォークインで補充を済ませた時和が店内へ戻ると、大平が検収作業を始めていた。時和は並べきれないチルド飲料を持ち、ウォークインの中へ運んでいく。その後、サンドウィッチやパンを並べて、空になったカゴを台車へ積んで外へ出す。
 小さいながらも三台の駐車スペースがある駐車場の車止めに、先ほどはいなかった男が座り込んでいた。酔っ払っている、と雰囲気で分かったが、時和は近づいて息を飲む。
「あ、あきたつ?」
 皆の前では長谷川と苗字で呼ぶように頼まれた。顔を上げた彼は、やはり酔っていたが、以前と変わらない。
「あれ? ときわー、ここのコンビニでバイト?」
 時和と呼ばれて、切ない気持ちがよみがえる。
「なぁ、みずある?」
「あ、うん、ちょっと待ってて」
 時和は店内へ戻り、レジの中から興味深そうに見ていた大平を横目に、スタッフルームへ入る。ロッカーから財布を取り出し、制服の上着を脱いで、ペットボトルの水を購入した。
「友達っすか?」
「うん、ちょっと一人にしていい?」
 大平に声をかけて、外へ出た。
「はい」
 水を差し出すと、明達は半分ほど一気に飲みほす。隣の市の大学へ通う彼の家は経済的に困っていないらしく、一人暮らしをさせていた。
「週末だから、こっちに?」
「ん、いや、電車、逆方向に乗ったみたい」
 明達はそう言って、昔のように快活に笑う。
「でも、知らなかったな。時和、ここのコンビニだったんだ?」
 駅の表側にあるとはいえ、時和の家から自転車で二十分もかかる場所にあるコンビニエンスストアだ。さらに夜勤という時間帯で働いているため、時和は高校時代の顔見知りに会ったことはない。もちろん、それがここを選んだ理由だが、明達に会えるとも思っていなかった。
「元気にしてる?」
「あぁ、何とかやってる。おまえは?」
 時和は胸の高鳴りを抑えて、小さく頷いた。明達が自分と普通に話してくれることが嬉しい。この再会をきっかけに何か起きたら、と期待して、同時に何も起きるわけがないと冷静になる。
「誰か迎えに来る?」
「彼女が車で来てくれる」
「中で待つ?」
「ここで待つよ」
 分かった、と時和は中へ戻ろうとした。右手首に熱を感じる。明達の大きな手が、手首をつかんでいた。
「水、ありがとうな。今度、お礼する」
「いいよ、お礼なんて」
 明達は笑って、「番号もアドレスも変えてないよな?」と言った。その言葉に頷いて、時和は笑みを浮かべた。


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