walou番外編8 | ナノ





walou番外編8

 ラウリの小さな手が伸びる。エクはほほ笑み、彼の手へ触れた。自分は負担になっても、こんなに可愛い赤子が負担になるわけがない。歌を口ずさみながら、ラウリをあやしていると、「エク!」と名を呼ばれる。
 雪国の靴にはまだ慣れないのか、イハブはよろけながらもイエッセンの家の前で止まった。
「迎えにきた」
 腕の中にいるラウリを見たイハブが、「誰か出産したのか?」と尋ねたのと、イエッセンの孫であるエリクが、「イハブも来た」と朝食の用意をしている女達に告げたのは同時だった。
 エクは慌てて、端的に今の状況を説明しなければならない、と考えをまとめる。
「イハブ様、あの、この子、僕達の子です」
 ヴァーツ地方のしきたりの一つ一つを話したことはない。イハブの黒い瞳はエクとラウリを交互に見た。
「イハブ! よく来たなぁ。準備も整ったと聞いたぞ。その子の母親もおまえ達のような親がいれば、安心だろう。さぁ、体を温めろ」
 イエッセンは蒸留酒の入った碗をイハブへ渡した。
「イハブ様、これは……」
 注がれた碗は空にしなければならない。イハブは一気に飲み干した後、ラウリを抱くエクへくちづけた。
「ん、ぅ」
 いつになく長いくちづけだったが、耳に入るざわめきに目を開くと、いつの間にか近隣の者達がこちらを見物していた。
「めでたいな。新しい家族ができたぞ」
 拍手を受けながら、エクは笑っているイハブを見上げる。彼は肩を抱き寄せ、「美しい伴侶に恵まれただけではなく、愛らしい子どもも授かった」と宣言した。それは口語として使われている言葉より、はるかに古い、ヴァーツ地方に残る詩の一説で、同性の伴侶が家族を作った時に読み上げる習わしがある。
「よし! 全員に朝食をごちそうするから、入れ」
 イエッセンの一声で、朝から宴が始まる。エクは小声でイハブに聞いた。
「知っていたんですか?」
 イハブは口元を緩め、エクの腕からラウリを取り上げる。
「家族を作るならわしは、本か何かで読んだことがある。おまえが俺を伴侶だと紹介した時から、こういう日がいつか来ると思っていた」
 エクは立ちどまり、先を歩くイハブの背中を見つめた。
「どうした?」
 振り返ったイハブは、目を開けたラウリへ視線をやり、「この子、きれいな青い目だな」とほほ笑む。
「イハブ様は、僕と、家族を作ってくれるんですか?」
 夜、安眠できない自分のために、起きて声をかけ続けてくれる。欲望を自分で処理しても何も言わず、ただ隣にいてくれる。与えられているばかりで、何も与えていない。
「おまえ以外に誰がいるんだ?」
 ラウリに人差指を握らせ、イハブは笑った。
「あなたに、いっぱい背負わせて、僕は……」
「エク」
 エクがうつむこうとしたら、「エク」ともう一度、名前を呼ばれた。
「俺、一人で背負っていると思ったことはない。あの時の、いくらでも待てるって言葉、そのまま返す」
 涙を拭うエクに、イハブが促す。
「行こう。主役が登場しないと、宴にならないだろう?」
 前へ、進み続けることで、いつか景色は変わるのかもしれない。エクはその景色をイハブと眺めながら、歳を重ねていきたいと思った。

番外編7 番外編9(帰郷から約5年/イハブ視点)

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