walou番外編6 | ナノ





walou番外編6

 エクは診療所の周囲の雪かきを終えた後、そのまま道なりに邪魔な雪を脇へ運んでいく。この手の重労働はヴァーツ地方の人間にとっては、幼い頃からの習慣だった。エク達が都のような気候に慣れないのと同じく、イハブにとって、太陽が見えない長い冬は耐えがたいものらしい。
 太陽が顔を出すと、イハブは嬉しそうに目を細めて、空を見上げていた。今日も、太陽の光が届く貴重な一日になりそうだ。
「エク、そろそろ行かないとーっ」
 反対方向へ進んで、雪かきをしていたイハブが呼びかける。そのイハブに近づく影があった。
「急病人だ!一人で行けるか?」
「大丈夫!」
「日が暮れるまでに帰って来れないなら、泊まって来いよー!」
 エクは、イハブの言葉に手を振った。雪かき道具を診療所まで引きずり、汗で濡れた服を着替える。イハブもイエッセンから呼ばれていたが、急病人なら仕方ない。春先から着手予定の蒸留所の話か、住人が極端に少ない村同士の合併の話だろう。
 雪の上でも歩きやすい靴を履き、エクは自家製の蒸留酒を手土産に歩き出す。イエッセンの家までは徒歩で一時間半程度だ。オストヴァルドのほうが高地にあり、雪の上を滑るように歩けるため、帰りよりはるかに早く到着できる。

 会うのは十四日ぶりで、人好きのする顔だちをした老齢のイエッセンは、その顔に笑みを浮かべた。
「それとこれで一杯やりながら話そう」
 エクの鞄からはみ出した蒸留酒を見て、イエッセンは右手に持っていたものを掲げる。太い縄の先にはカワカマスの燻製が垂れ下がっていた。階段を上がり、彼の家へ入る。靴についた雪を落としていると、彼の孫が姿を見せた。
「エリク、久しぶりだね」
 三歳のエリクは口数こそ少ないものの、礼儀を心得ており、軽く視線を下げ、「こんにちは」と歓迎してくれる。すでに首長の孫として、威厳があり、将来が恐ろしい、といい意味で噂されている彼は、イハブとエクが初めてここへ来て以来、よく顔を出す。
 大人達の話など面白くないだろうに、エク達が来た時だけは、邪魔にならないよう隅のほうへ座り、玩具で遊んでいた。
 暖炉のある客間へ通され、エクはすぐにその存在に気づく。手作りのゆりかごに入った赤子だった。イエッセンの息子夫婦に二人目ができたらなら、その朗報はヴァーツ地方の隅々にまで届く。エクは眠っている赤子を見て、思わずほほ笑んだ。
「エク、まぁ、座ってくれ」
 イエッセンは赤子が眠っていることを確認してから、エクへ椅子をすすめた。蒸留酒を小さな碗へ注ぎ、まずは乾杯する。一杯目は一気にあおり、二杯目からは少しずつ流す。
「イハブは仕事か?」
「急病人が来たので、診療所を任せてきました」
 イエッセンは深く頷き、二杯目も飲み干した。エクが新しく注ぐと、彼はカワカマスの燻製を少しだけ蝋燭の炎であぶり、差し出してくる。
「ありがとうございます」
 酒が進んだところで、イエッセンが本題に入る。話は限界集落となっている二つの村の合併のことだった。特に若者がいない村は、今の時期、冬を越すのも一苦労だ。そのため、イエッセンはすでに手を打っており、彼らをこの周辺へ移動させていた。
「それでなぁ、おまえ達のほうは、どうだ?」
 話が見えず、かすかに首を傾げると、「伴侶の式はしてないが、受け入れる準備はできてるか?」と、イエッセンの視線がゆりかごへ向かう。エクは思わず立ち上がった。

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