walou番外編2 | ナノ





walou番外編2

 九歳はまだ子どもだと言われることに、エルノは不満を感じていた。確かに一人前の男だと認められる十五になるのは、まだ六年先だが、エルノはもう働きに出ている。父親の仕事を手伝い、蒸留酒造りのために畑へ出て大麦を収穫し、最新式の蒸留装置の基礎も学んでいた。
 エルノの住む家は村の中でいちばん大きい。六年ほど前に都へ行った兄が残した金と彼が親善大使になってから送られてきた金によるものだ。エルノは当時、三歳だったが、兄と離れるのが嫌で泣いた記憶がある。彼はあの頃と変わらない姿で帰ってきた。
 兄は両親をはじめ、村の皆にとっても自慢の青年だ。この東の地域一帯にある集落の首長であるイエッセンも、彼の意見を求めるほど信頼している。エルノは彼が変わらない姿で帰ってきたことに涙し、誰よりも誇らしいと思っていた。
 美しく、家族思いの兄は、村の隅々を見てまわり、イエッセン達と強力して、診療所を開いた。朝は薬草を採りに出かけ、昼間は診療所に出入りし、時々、大人達と今後の建設物について話し合っている。いったいいつ休んでいるのだろうと心配になるが、エルノにはまだ彼の負担を減らせるだけの力はなかった。
 兄は多忙な中でも時間を作っては、エルノの仕事ぶりを見にくる。エルノ達が調整した蒸留酒を味わい、色々な助言をしてくれる。
 子どもと言われることは嫌だが、エルノは昔のように、兄に添い寝をして欲しかった。それが叶わないなら、せめて一緒に夕食を食べたい。だが、兄は伴侶となる男を連れて帰ってきていた。式は挙げていないものの、伴侶と認められた男は、兄と同居している。
 イハブという名の男だった。都の人間達と同じ、日に焼けた肌と黒い髪、そして黒い瞳を持ち、とても背が高い。最初は皆、イハブを警戒していたが、今となってはすっかり村の人間に溶け込んでいる。
 エルノにとってはもちろん面白くない。イハブが傲慢で嫌な奴なら、堂々と嫌いだと言えるのに、実際のイハブは寡黙で親切な人間だった。皇帝の印が入った自由医師の証書を持ち、医術だけではなく薬草学に長け、語学も堪能で、習得が難しいと言われるこの地方の言葉もすぐに覚えた。
 さらに、イゾヴァとの交渉の間に立ち、希少な薬草とヴァーツ地方の蒸留酒を交換し、都にまで蒸留酒を売買する経路も作り上げた。兄と同じく毎日朝から夜まで働くイハブは、病気やケガで動けない村人がいれば、時間も距離もいとわず往診している。彼を悪く言う人間はいなかった。
 兄がイハブを見る瞳には、いつも愛があふれている。大切なものを見つめるまなざしに加え、敬い、慈しむ感情が見て取れる。両親は兄とイハブが心から愛し合っているのだと言い、服の裾で涙を拭いながら、兄が愛する人を見つけたことを喜ぶが、エルノには分からなかった。エルノの目には、兄がイハブを愛するように、イハブも兄を愛しているようには見えなかった。
 添い寝もできず、食事も星の日の夕食くらいしか同席してくれない。それなら、と湯浴みへ誘ったが、兄は首を横に振るだけだった。ヴァーツ山脈のふもとには、いくつかの温泉があり、冬場だけではなく、夏場も近隣の村人達が集まり、裸の付き合いをする場となっている。
 兄が温泉嫌いになった理由は分からないが、イハブが関係していることは確かだ、とエルノは診療所の出入口に出てきたイハブを見つめた。隣村に住むイリナが娘の咳を心配して連れてきたようだ。
 礼を言う彼女に、イハブは静かな笑みを浮かべ、イリナの娘の頭をなでる。女達は穏やかな美丈夫と話す時、少し頬を染めた。その変化に気づかないわけがないのに、イハブは表情を変えず、兄の前でも話を続けたり、笑ったりする。
 そういう場面に出くわすと、エルノは腹が立った。大人しい兄は何も言わないだろうから、自分が代わりにイハブを突き飛ばしたくなる。こちらに気づいたイハブは、軽く手を挙げて振った。エルノは視線をそらし、乾燥させていた果物をカゴへ入れていった。

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