walou番外編1 | ナノ





walou番外編1

 ラウリは処刑場となる宮殿前広場へ引きずられた時、ほとんど意識がなかった。森に入ってからすぐ守衛達に見つかり、二日間ほど拷問を受けた後の公開処刑だった。
 十字の梁へ拘束される痛みにうめきながら、ラウリは自分を見つめ返す視線を見返した。ヴァイスが娯楽代わりに処刑されるのは、今でこそ少ないが、以前からあったことだ。その中にイハブがいないことを知り、安堵する。救った命がまた奪われていくのを見るのは、彼のようにまっすぐな青年には酷だ。一緒に故郷へ帰ることは叶わないが、ラウリはこれでようやく終わりなのだ、と深い息を吐いた。

 マムーン皇帝が指揮する軍がヴァーツ地方へ侵攻した際、ラウリは幼馴染のエリクと麦畑へ出ていた。短い夏とほんの少しの秋の間に垂れ下がる黄金の穂へ触れていると、エリクがうしろから抱き締めてくる。
 彼の手が肩から腰へ回った。愛の言葉をささやかれ、ラウリは振り返ってその言葉へこたえる。いつものように彼がくちびるで受けとめてくれるはずだった。その表情が青ざめるのを見て、ラウリは視線の先を見やる。
 村のほうから煙が上がっていた。黒い点が徐々に近づいて来る。エリクは、逃げろと言った。だが、ラウリは一人で逃げることなどできなかった。孤児だったラウリを引き取って育ててくれたのは、エリクの家族だ。
 ラウリ、皇帝は美しい人間を性奴隷にする。男も女も関係ない。どんなふうに扱われるか、聞いているだろう、とエリクが怒ったように言った。
 肩をつかまれ、行け、と突き飛ばされる。ラウリは泣きながら走り、麦畑の中へ潜んだ。もう一人いただろう、と剣で脅されるエリクを見て、ラウリは目をつむる。出てこなければ、殺す、と叫ばれた瞬間、ラウリは涙を拭いながら立ち上がった。
 黒い馬に乗ったマムーンが息を飲み、残虐な笑みを浮かべた。エリクを殺さないで、とすがり、絶望から目を背ける彼の前で犯された。以来、ラウリは皇帝の性奴隷になった。宮殿の中の一室へ幽閉され、マムーンの望むままに陵辱された。
 抵抗などしなかった。ラウリはエリクが生きていると信じていたからだ。だが、人形のように反応を示さなくなったラウリを見て、マムーンはエリクを殺した証拠を差し出した。狂うように泣くラウリを犯し、道具や人を使って拷問したマムーンは、意識を失った彼をゴミ捨て場へ投げ入れさせた。

 ラウリはずっと死を望んでいた。苦しいのも痛いのも嫌だった。イハブとの出会いで延びた自分の命には、何の意味があるのだろうと考えた。目の前に鋭い切っ先が見える。ラウリは青い空を見た。

『ラウリ』
 遠くから声が聞こえる。
『起きたのかな? 今日はちょっと寒いけど、お日様が出てるよ』
 ラウリをのぞき込んだのは、緑の瞳をした美しい青年だった。彼が同郷の人間だとすぐに分かったが、顔には見覚えがない。だが、彼は愛しい者を見る瞳で、優しく話しかけてくる。
『ほら、きれいな青空だね』
 その時、ラウリは聞き覚えのある声を聞いた。思わず笑みを浮かべてしまう。
 あぁ、そうか、と目を開いた。
 何も見えなかった。熱風が吹き上げてくる。
 そこは熱いぞ、こっちへ来い、とエリクが呼んでいる。振り返っても彼はいない。ただまぶしい光があるだけだ。
 またいつかめぐり合う時のために、人は出会い、別れを繰り返している。そう確信したラウリは、その光を目指して歩き始めた。会いたい人達に必ず会えると信じながら。


43 番外編2(帰郷から約1年/エルノ(エク弟視点))

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