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 うしろから羽交い絞めにされ、背中の上へひざを立てられた。大きめの碗の中に、残飯の塊があった。男達は笑いながら、その中へ射精と放尿を繰り返していた。後頭部を強く押され、エクは頭ごとそこへ突っ込まれた。全部食べなければ、また蝋燭を置く台にしてやる、と脅された。
「っう、ぇ」
 エクはイハブを押しのけ、診療所の裏から出て、茂みの中へ入った。こみ上げてくるものを吐き出すと、思い出したくはない過去がよみがえる。
「エク!」
 うしろから手を肩へ置かれ、エクは泣き叫んだ。おいしそうに食べなかった、という理由で、仕置きされたこともあった。
 騒ぎを聞きつけたハキームがやって来る。彼はエクの前に回り込み、涙で濡れたエクの目元を指で触れた。
「何があった?」
「タリスを飲ませたら、反応がなかったから、いつから味覚がないのか聞いたんです」
 エクは知る由もないが、タリスという薬草から作る液体は、栄養価が高いものの、思わず顔をしかめるほど苦いものだった。ハキームはエクをなだめるように、優しい声で話しかける。
「エク、もう大丈夫。口をゆすごう? 立てるかな?」
 エクはハキームを見て、頷いた。彼に手を引かれ、ゆっくりと診療所へ戻る。
「さぁ、ここに座って」
 ハキームは仕切り布を引き、イハブを締め出した。口内をゆすいだ水を木碗に吐き出すように言われて、エクは指示に従う。ハキームは丁寧に、濡れた布で口の周囲を拭ってくれた。
「舌を出して」
 舌の奥、先、裏側へ、先ほどとは異なる薬液を垂らされた。
「何か感じるかな?」
 エクが首を横に振ると、ハキームは安堵させるように頷いた。
「飲み込んでみて」
 それでも、何も味がなかった。
「ご、ごめんなさい」
 エクはつい謝った。ハキームは、「どうして?」とほほ笑む。
「味がしないのは君のせいじゃないだろう? それに、今ので分かったことがある。味覚はそのうち戻るから安心しなさい」
 仕切り布の向こうへ消えたハキームの小さな声が聞こえる。彼はイハブへ、「精神的なものだ」と伝えていた。エクは服の裾を握り、おいしいです、とくちびるだけ動かした。

 診療所の掃除はしなくていい、と言われたエクは、薬草店の手伝いを始めた。イハブがいつも作業台で行なっていた、薬草を切り刻んだり、煮込んだりする作業だ。イハブは薬草採りへの同行は拒んだが、店の中では何でも教えてくれた。
 椅子に座り、背中越しにイハブが接客するのを聞きながら、エクはひたすら教えてもらった作業を片づけていく。少しでも役に立ちたかった。役に立っていれば、タミームに言われた、彼を苦しめる存在にはならないだろうと考えていた。
「エク、少し休憩しよう」
 脇目も振らず働くエクに、イハブは小さな笑みを見せた。その笑みを見るだけで、エクは胸が温かくなる。イハブは薬を調合するために使用する器具を取り出し、炎の先に丸みを帯びた碗を固定した。
「おまえはこれを」
 小さな袋には雪のような粉が詰まっていた。イハブが何をするのか理解し、エクは涙を拭う。じっくりと揚げられたクヴァッキーニに白い粉をまぶした。
「食べてみろ」
 少し冷ました後、エクは大好きなこの揚げ菓子を頬張る。涙を流しながら、「おいしい」と嘘をついた。イハブは苦笑して、狼狽するように額を右手で押さえた。
「おまえは、甘いって言った。故郷の雪もこんなに甘いならいいのにって」
 イハブは屈んで、エクのくちびるについた粉を拭った。それから、触れるだけのくちづけをした。一瞬すぎて、エクには現実と思えなかったが、くちづけの後、彼はぎゅっと抱き締めてくれた。

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