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 見下ろした自分の肌から視線をそらし、エクは寝台の下へ散らばっている衣服を集めた。肌を滑るようなやわらかな素材の服へ袖を通してから、寝室の中にある椅子へ腰かける。つい先ほどまで、守衛がここへ座り、酒を飲んでいた。その酒は半分ほど残っており、エクは木碗から一口飲む。
 酒を飲んでいた守衛はここへ座り、寝台で犯されるエクを見ていた。エクは同じように乱れている寝台を見つめる。傷痕の残る卑しい性奴隷が、四つ這いになり、前と後ろに男達の性器をくわえこんでいた。
 エクはもう一口、酒をあおり、翻訳作業を行なっている隣室へ移動する。タミームが自分を抱かなかったのは、ひどい傷痕に興ざめしたからだろう。ファイザのみならず、側室も美しい者達ばかりだと耳にしていた。
 性奴隷を買ったり、エクを犯す守衛達のような人間は、卑劣で低俗な類の人間だ。タミームはそういう人間ではなかっただけのことだ。そして、イハブもタミームと同様だろうと予想した。
 エクは作業台に積んである本の中から、適当な一冊を選ぶ。にじんだ視界の中に、遠い東の国の思想が書かれていた。広大な森林地帯を抜け、さらに東へ進むと、こことはまったく異なる言葉と価値観を持った国がある。医術書の多くは、彼らの国から持ち込まれ、翻訳された。
 エクが手にしていたのは、思想本だった。ヴァーツ地方をはじめ、この付近一帯では火葬は罪人に対する罰だ。だが、東のとある国では、死を迎えたら火葬される。器を燃やすことで、魂が転生するからだ。
 頬から滑り落ちた涙が、羊皮紙の上に落ちた。火葬されたら、魂は永遠に暗闇をさまようと教えられてきた。だが、エクはきれいな体へ生まれ変わることができるなら、火葬して欲しいと思った。
 木碗を傾け、酒を飲み干したエクは、椅子に座り込んだまま目を閉じる。空腹のまま飲んだ酒は体を温め、エクを夢の世界へ誘った。

 ファイザの使用人がエクにつくようになってから、エクに用意される食事は粗末なものへと変わった。親善大使としての仕事をこなす合間に、守衛達からもてあそばれている体は、ゆっくりと確実に限界を迎えようとしていた。
 イハブが通らないかと期待を込めて、エクは寝室の窓から下を見た。下の道は離宮の裏にあたるが、宮殿を囲むようにして造られている美しい庭は、裏の道を通るほうがよく見える。
 きゅっと痛んだ胃に、エクは視線を上げた。緑の葉の間にある赤い実に気づき、空腹を満たすために手を伸ばす。リンゴはサルマの屋敷で食べたことがあった。噛むと、果汁が口いっぱいに広がった。エクは身を乗り出し、リンゴへ手を伸ばし続ける。
 あ、という小さな声は、誰にも聞こえなかった。指先がリンゴをかすめ、次の瞬間、エクの体は土の上にあった。エクは捻ってしまった左足を軽く押さえ、痛みに顔をしかめたものの、すぐに木の下へ落ちているリンゴをつかんだ。やわらかなそれは、腐って自然に落下したものだ。
 エクは気にすることなく、黒ずんだリンゴへかぶりつく。サルマのところで食べたものとは違うだろう。だが、今のエクには分からない。夢中になって食べていると、ファイザが声を上げた。使用人数名を連れた彼女は、腐ったリンゴを食べるエクに嫌悪の表情を見せた。
「まぁ、何を口にしていらっしゃるのかしら? それにこの臭い」
 ファイザは袖口で口元を押さえる。エクは自分の状態に気を配ることができる状況ではなかった。先ほどまで相手をしていた男達の精液で、髪や体が汚れている。使用人の一人が水浴びを提案すると、ファイザは笑みを浮かべた。
「そこの湖でいいわ」
 エクはファイザの愛らしい笑みから視線を外し、その美しい鎖骨から胸元へ続く肌や細い指先を見た。使用人二人が脇の下へ腕を通し、エクを湖のほうへ引きずる。死んだら、生まれ変わりたい。傷一つない肌なら、気にかけてもらえるかもしれない。

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