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 乳首をつままれ、はじかれるだけでも下半身がうずく。口の中へ広がる温かな液体を飲み込みながら、エクは心の中で何度も嫌だと拒否した。使用人が守衛に渡した軟膏には、特殊な薬が混ぜられており、エクのペニスは吐くものが何もなくなってもまだ勃起したままだった。
 エクは夜毎訪れる守衛達の存在に、すっかり怯えていた。彼らの中には、宿屋を利用したことのある者もいた。エクの胸と性器の周囲に残る火傷の痕を見て、それがどんな行為でできた痕なのかを、エクに思い出させるように聞かせる者もいた。
 エクにとって、その話は忘れてしまいたい記憶そのものだった。ザファルは大金を払う氏族達へエクを見世物にした。体を縛り上げ、乳首とペニスへ蝋を垂らし、炎が灯された蝋燭を立てた。男がゆっくりとアナルを突くたびに、エクの体は揺れ、炎によって融けた蝋がエクの肌へ散った。
 手で顔を覆っていたエクは鳥のさえずりを聞き、涙を拭う。視界に入ってきたのは、今朝届けられた家族からの手紙だった。あなたを誇りに思います、という一文を指先でなぞる。先に送られた金で、蒸留酒を造る道具を一新し、生活も楽になったようだ。八歳になった弟は、麦刈りを手伝っている、とまだ幼い文字でつづっている。
 エクは何度も手紙をなでた。家に帰りたい。だが、この務めを果たさずに帰った自分を、誇りに思ってくれるかどうか分からない。使用人として都へ行くことを、最後まで反対していた両親だ。たった一年でも性奴隷として扱われたと知ったら、きっと彼らは彼ら自身を責め続ける。
 扉を叩く音に、エクは席を立った。
「タミーム様」
 皇帝自らが誰かを訪ねることは珍しい。エクがひざをつくと、彼はすぐに合図をして、エクを立たせた。
「本当だな」
 タミームは目を細め、エクの手首をつかんだ。
「あまり体調がよくないと聞いた。それに、少しやせたようだ」
 自分の様子を見るためだけに離宮へ寄ってくれた皇帝に、エクは恐縮し、頭を下げる。タミームはエクを寝台へ座らせた。
「翻訳の作業をずいぶんと進めてくれているらしいな。無理はしなくていい。辛い時は休んでいろ。横になってもしんどいなら、ハキームを呼ぶ」
 穏やかな口調で言いながら、タミームはそっとエクの髪をなでた。エクはハキームを呼ぶと言われ、「イハブ様も来ますか?」と尋ねる。時おり、薬を運んでくる姿を見かけた。イハブはまったく気づいていないが、遠くから彼を見るだけで、エクは満足していた。
「イハブ? あぁ、彼なら今日も来ている。ファイザ達に薬を届けているはずだ」
 タミームは一瞬、気難しげな表情を見せた。
「エク、イハブとは知り合いなのか?」
「はい」
 エクは隣に座ったタミームを見上げる。
「サルマ様の薬を調合していたのがイハブ様です。薬を取りに行くと、いつもよくしてくださって、とても感謝しています」
 タミームは、「そうか」と言い、「イハブに会いたいのか?」と続けた。エクはすぐに頷く。
「会いたいです。僕が……こんなに立派になったと言ったら、きっと喜んでくださりっン……ッん、ぅ」
 天井が見えた。エクが手を動かすと、タミームの熱い手がその動きを封じる。くちづけを受けているのだと分かり、エクは混乱した。舌を絡ませてくるタミームは、エクのくちびるをむさぼり、ゆっくりとうなじへ触れ、着衣の間から指を滑らせる。
 抵抗しないようにしつけられたエクは、ただ人形のように動かなかった。胸のあたりをまさぐっていた手が止まり、タミームが上半身を離す。彼の顔には驚きの色があった。触れたものを確かめるため、彼が前をはだける。
「……すまない」
 エクの体に残る痕を確認したタミームは、乱した衣服をきれいに直す。心音がうるさい。エクは彼が自分を抱かない理由を考えていた。舌を絡ませてくちづけされたのは、久しぶりだった。性欲処理のための奴隷に、そうした前戯で安らぎを与えてくれる者はほとんどいなかったからだ。
「すまない」
 タミームはもう一度、謝り、寝室を出ていった。エクは天井を見上げながら、あふれてくる嗚咽を抑えることなく泣いた。消えることのない傷痕が、大きな暗い口を開けていた。

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