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 アミッドの男は懐に携えていたナイフを取り出す。イハブは思わず座り込んでいるラウノの前に立った。すぐにハキームが、その場を収めるために口を開く。
「では、わしが切ろう」
 驚いた様子を見せたのは、アミッドの男が連れていた二人と、イハブだ。アミッドの男は興味深そうにハキームを見つめ返した。
「あなたなら問題なく切るだろう。だが、右足首は骨折しているし、出血が止まらずに死んでも困るだろう? 腱だけを切る」
 ハキームの言葉には説得力があった。アミッドの男は、「いいだろう」と頷く。
「イハブ」
 ハキームは治療に使うナイフと痛み止めの薬草の名を口にした。まだ慣れない頃は、緊急の患者や瀕死状態の患者を診た際、指示に従えず、ただ立ち尽くしていた。今はどんな状況でも指示通りに体が動く。
 だが、イハブは強力な痛み止めの薬草を取り出しながら、ハキームの言葉に矛盾を感じていた。ここへ来れば、誰でも平等に扱われ、きちんとした治療を受けられる。ハキームは博愛主義であり、立派な人間なのに、どうして、という疑問がわいた。
「ベッドへうつ伏せに」
 ラウノは放心しており、ハキームの言葉にも反応しなかった。ハキームは彼を支え、ベッドへ横たえた後、仕切り布を引き、「悪い菌が入ったら困る」と告げた。
「イハブ、おまえは来なさい。消毒と痛み止めを」
 ラウノをうつ伏せにする前に、ハキームは彼の頬へ手を当てた。
「ラウノ」
 小声で何度も彼の名前を繰り返し、そっと抱き締めると、彼はようやくハキームへ焦点を合わせた。それと同時に嗚咽を漏らし始める。
「ラウノ、腱というのはここだ」
 左足首のうしろへ触れ、ハキームはイハブに包帯を巻いていた右足首の消毒をするように言った。
「いいか。痛み止めが効くから大丈夫。腱も切断するわけじゃない。傷つけるだけだ。しばらくは引きずって歩くかもしれないが、君はまだ若いから、歩いてさえいれば、また元に戻る。分かるね?」
 アミッドの男に切らせなかったのはこのためか、とイハブは自分の浅慮を恥じた。ラウノは小さく震えながらも、ハキームが最善の策を講じたと理解し、頷く。痛み止めの薬草を煎じて、彼へ飲ませた。
「さっきより強い薬だ。夜中までは感覚がなくなる」
 ハキームはうつ伏せているラウノの右足へ、ゆっくりと指先を滑らせた。
「何か感じるかな?」
「……何もないです」
 ハキームはこちらを見て、手のひらを差し出す。イハブは彼の手にナイフを置いた。清潔な布であふれた血を拭う。
「あ、あの、今」
「そうだ。振り向かないで。痛くはないだろう?」
 ラウノは痛みを感じていないようで、ただ静かに終わるのを待っていた。ハキームは浅く傷つけただけで、すぐに止血のための薬草とともに清潔な布をあてがう。イハブは手際よくその箇所を長い布で巻いた。
「ラウノ」
 感覚のない彼のために、イハブは手を貸してやる。ハキームは包帯の間へ痛み止めを煎じた薬包紙をいくつか押し込む。
「骨折は治るまで時間がかかる。痛い日はこの薬を少し飲むんだ。分かったね?」
「はい」
 仕切り布を引くと、アミッドの男達が監視するようにこちらをうかがった。
「大層なことだ」
 巻かれている包帯を見て、男が言った。
「本当は切ってないんじゃないのか?」
「傷痕が残る。だが、今は骨折を治すほうが先だ。しばらく固定しておかないと、まともな使役ができなくなるぞ」
 アミッドの男は何も言わず、まだ痛み止めの効いているラウノを一瞥し、診療所を出て行った。

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