ゆらゆら番外編2 | ナノ





ゆらゆら番外編2

 先週から崩れていた天気が、春独特の温かい風を運ぶ。夜はまだ少し冷えるものの、一成は薄手のコートだけを羽織り、仕事後の買い物を済ませて家路を急いだ。孝巳と約束した誰もいないところは、先日清掃会社へ依頼し、食料品を詰め込んでもらった別荘だ。明日から五連休を取り、車で三時間かけて行く予定だった。
 いつものように鍵を開け、中へ入る。異変にはすぐ気づいた。一目で高価だと分かる革靴がある。一成は買い物袋と鞄をその場へ置き、リビングへ進んだ。ソファに寛ぎ、テレビを見ていた男が、右手に持ったワイングラスを掲げる。
「おかえり、一成」
 男は上着をソファの背もたれにかけ、薄いラベンダー色のシャツのボタンを胸元まで外していた。彼にぴったりと合うその衣服はすべてオーダーメイドだ。赤ワインを一口、優雅な仕草で口へ含み、くちびるを薄く引く。その自信に満ちた笑みが昔から嫌いだった。
「さすが、うまいワインをそろえてるね」
 立ち上がった彼は、両手を広げてハグを持つ。
「……孝巳は?」
 一成は男を無視して、寝室へ入った。間接照明ではない照明をつけると、ベッドシーツが乱れている。その上に赤い染みを見つけ、怒りがわき上がった。
「孝巳に何したっ」
 振り返った先にいる男へ怒声を上げ、つかみかかる。昔は彼のほうが強かった。だが、今は一成のほうが背が高く、筋力もついている。つかみかかったはずみで、彼は廊下へ尻もちをついた。
「いたた。驚きだな。こんな歓迎を受けるなんて」
「歓迎してない。何でここにいる? 早く消えろ」
 廊下の階段下にある扉へ視線をやり、地下室へ続く扉を開こうとした。鍵がかかっている。一成は舌打ちし、ベッドルームのウォークインクローゼットの中から合鍵を取り出した。
「地下室なんてなぁ。おまえ、全然忘れてないだろう? まだ俺のことを思って、あいつで慰めてるのか?」
 彼の挑発に奥歯を噛み締め、一成は鍵を開けて中へ入った。かぼそい消え入りそうな音とは別に、孝巳のアナルへ埋め込まれているバイブレーターの機械音が響く。
「孝巳!」
 急いで階段を降り、四肢を拘束されている孝巳へ近づいた。口と目はガムテープでふさがれていた。何重にも巻かれ、とても手で千切れそうにない。一成はまず孝巳のペニスを拘束していた貞操帯から外してやる。
「孝巳、動くな。もう大丈夫、落ち着け」
 貞操帯を取ると、泡立った精液が垂れた。一成はアナルのほうのバイブレーターも引き抜き、左手首の拘束を取り外す。
「きれいな子だね。遊び慣れてると思ったら、意外に警戒心が強くて、つい本気になったんだ」
 足首の拘束まで外したところで、一成は失神している孝巳を抱え、ベッドルームへ運ぶ。ハサミを使い、なるべく髪を切らないようにガムテープへ刃を当てた。だが、結局はテープ部分にはりついている髪を切るしかない。一成は男の存在に冷静ではいられない状態だったが、何とか目と口の周りのガムテープを切り終わった。
 予想通り、顔を殴られた痕跡がある。新しいシーツで孝巳の体を包み、一成はまだ自分の家にいる男を睨んだ。
「何でいるんだ? トーランスへ帰れ」
「寂しいこと言うなよ……」
 彼が続けようとした言葉の先を、手にしていたハサミを投げつけることで聞かないようにした。
「早く出て行け」
 彼は肩をすくめ、「出直す」と言った。その場に座り込み、孝巳の髪へ手を伸ばす。一成は自分の手が震えていることに気づき、にじむ視界を隠すようにシーツへ顔を押しつけた。


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