ひかりのあめ25 | ナノ





ひかりのあめ25

 博人が言った通り、週二回ハウスキーピングが入るため、俊治がどれだけ脱ぎ散らかしても、その状態が長く続くことはなかった。
 俊治がそのままにしてしまうものを、博人がこっそり片づけていることに気づいてからは、なるべく片づけるようにしている。
「バイト、楽しい?」
 ソファに座ってテレビのチャンネルを変えていると、博人がラップトップを抱えて隣へ座った。
「皆、優しくて面白いです」
 俊治はテレビを消すと、ガラステーブルの上の携帯電話を手にした。ふと視線を向けると、博人が笑って、ひざの上に乗せたラップトップが落ちないように気をつけながら、頬にキスをくれる。
「ちょっと髪が伸びたね」
 襟足の部分だけ、バイトの時は結んでいたが、そろそろ切ってもいいと思っていた。
「切ろうかな」
 俊治がつぶやきながら、指先で髪をいじると、博人の手も伸びてくる。長い指先が頬からうなじへ落ち、髪へ絡んだ。
「切ろうか?」
 博人の問いかけに頷くと、彼はさっそく立ち上がる。
「ほんの少しだけね」
 バスルームの引き出しから散髪用のハサミを取り出してきた博人は、俊治にキッチンテーブルの椅子へ座るように促す。
 俊治は上着とシャツを脱いでから座った。
「寒くない?」
「はい、大丈夫です」
 いつも分けている場所で前髪を分けた後、博人は器用な手つきで髪を切り始める。
「博人さんが髪も切れるなんて意外です」
 ハサミの音を聞きながら、話すと、博人が背後で笑った気がした。
「施設育ちだからね。よく小さい子の髪、切るの手伝ったよ」
 しばらくハサミが動く音だけが響く。肩に落ちた髪を払った博人が、終わったよ、と声をかけてくれた。
「そのまま、シャワー浴びておいで」
「そうします」
 俊治はバスルームに入り、洗面台にはめ込まれている大きな鏡に自分を映した。長すぎず、短すぎず、ちょうどいい長さになった。シャワーを浴びて戻ると、すでに片づけを終えた博人が飲んでいた。ロックグラスの中の氷が心地のいい音を立てている。
「俊治君も飲む?」
 頷くと、博人がロックグラスを出してきて、同じようにウィスキーをロックで注いでくれた。
「ノース・ポート」
 差し出されたロックグラスを受け取る。
「髪、ありがとうございました」
「気に入った?」
「はい」
 鼻を近づけると、甘い香りがした。俊治は一口、味わうように飲む。
「飲みやすい?」
 博人に聞かれて頷くと、彼は満足したように笑い、ソファに座った。もう一口飲むと、甘い味が深くなる。俊治が彼の隣へ腰を下ろすと、彼が子どもを抱き締めるように大きく手を広げて近づいた。ぎゅっと力強く抱かれた後、頬にキスが与えられる。
「俺、来月から、食費とか色々、払えますから」
 気になっていることを話すと、博人は分かっていると頷いてくれた。博人は決して俊治の矜持を傷つけないだろう。金を渡せば必ず受け取ってくれる。だが、その金を彼は無駄に使わない。
 俊治は初めて、自ら博人の頬にキスをしてみた。休みでひげ剃りをしていないせいか、博人の頬は少しだけちくちくする。それがよけいに男を感じさせて、俊治は興奮した。甘いノース・ポートへ手を伸ばし、もう一口飲んでから、今度は彼のくちびるの端をなめてみる。
 俊治の舌がなめた後を博人がぺろりとなめた。その瞳を見た時、俊治はもう恋人未満の関係ではいられないと感じた。

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