ひかりのあめ24 | ナノ





ひかりのあめ24

 新しい家は新興住宅地に建っており、自転車で十分ほどで駅前まで着く。ちょうど北から南へ下り坂になっていて、駅前まで向かう時はおそらく十分もかかっていなかった。俊治はデザイナーズマンションの部屋が決まってから、その周辺でアルバイトを探していた。なかなか見つからず、面接まで行っても、受からない状態が続いていた。
 先週、仕事から帰ってきた博人が、同僚達がよくランチや夜の食事に使っているイタリアンカフェがあるという話をしてくれた。博人もたまにランチへ行くらしいが、そこのウェイターが一人辞めたらしい。
「はい」
 博人にショップカードを渡されて、俊治は博人の顔とカードを見比べた。
「そこね、個人でやってるレストランで、オーナーさん、とてもいい人だったよ。お酒に詳しいウェイター募集中なんだって」
 翌朝、博人が仕事に出てから、俊治はこっそり電話してみた。電話に出たのは従業員だったが、すぐにオーナー兼店長の男性から電話をかけ直してくれて、今日の面接まで決まった。
 駅前のメイン通りから外れた場所にカフェを見つけて、俊治はカフェと隣のビルの間に自転車を停めた。立て看板は黒板になっていて、ランチメニューのお勧めが手書きで書かれている。昼前だったが、中はそれなりに客が入っていた。
 ソムリエエプロンのような長いエプロンを身につけたウェイターが近づいてくる。面接に来たことを告げると、奥に入るように促された。導線を通り、キッチンを抜けて、裏口が見えるところまで入り込むと、オーナーがロッカールームから手招きしている。
「こっち、こっち」
 オーナーの隣にはコックコートを着たキッチンスタッフが座っていた。落ち着いた感じの彼は、俊治が前に来ると立ち上がり、軽く会釈をしてくれる。小柄な青年だった。
 オーナーは俊治が持参した履歴書に目を通した。俊治は何となく、オーナーの他に誰かがいてくれてよかったと思う。オーナーという役職を聞くだけで、自分が変えてしまった彼のことを思い出すからだ。
 目の前のオーナーも、彼のように優しい笑みを浮かべていた。以前、働いていたバーでの業務内容をいくつか聞かれた後、雇用条件の話になり、最後に「じゃ、明日からでもいいってこと?」と言われ、採用されたことが分かった。
「うちはカフェってうたっているけど、実際、夜はけっこうワインとか出るからね。お酒に詳しい子が欲しいと思ってたところなんだ。いずれ、アルコールの種類は増やそうと思ってるしなぁ」
 そう言った後、オーナーは隣に座っていたキッチンスタッフの肩を叩いた。
「おまえもビールに合う料理ばっか考えんなよ。うちはイタリアンなんだから」
「すみません」
 青年は謝っていたが、表情は笑っていた。
「あ、こいつ、リーダーで、シフトも管理してるし、何か困ったことがあれば、彼に言ってくれたらいいから。あと、まぁ、ホールにもサブがいたんだけど、その子が辞めちゃって。当分、彼に教えてもらって? キッチンスタッフだけど、ホールのほうも一通りできる子だから」
「いや、ホールは……」
 首を傾げる青年にオーナーは笑って、彼のことを紹介した。
「えーと、守崎俊治君、彼が……慎也って苗字、何だっけ? あ、会田? ごめん、ごめん。皆、だいたい名前で呼ぶから、よく苗字を忘れるんだよ」
 俊治が頭を下げてあいさつとすると、慎也もまた頭を下げた。オーナーは面白そうで、慎也は物静かで優しい雰囲気をまとっている。ここなら楽しく働けそうだと俊治は思った。

 俊治はすぐに博人へメールをしておき、その日の夜、帰ってきた彼に飛びつきそうな勢いで報告した。二人の関係はまだ友達以上恋人未満であり、キスもくちびるにはしない。寝室もわざと別にしていた。
「よかったね。ランチにのぞいたら、俊治君がいることもあるってことだよね。今までは帰るまで会えなかったけど、明日からは会いたいと思ったら会えるってことか」
 俊治はそういうことを言える博人に、どう答えていいか分からず、だが、アルバイトが決まったことはやはり嬉しくて頷いた。先月は働いていないから、今月は給料がない。家賃は不要だと言われても、光熱費や食費くらいは払いたいと考えている俊治だが、ないものを払うことはできない。そのことに俊治は少しストレスを感じていた。

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