ひかりのあめ23 | ナノ





ひかりのあめ23

 俊治の言葉を受けて、博人は言葉を返した。
「だから、一緒にいるんだよ。始める前から諦めないで欲しいな。一人より二人のほうがいいと思わない?」
 俊治は新しい涙を拭った。
「始めてみる?」
 頷けずにいると、博人は苦笑いを見せた。
「困らせたいわけじゃないんだ。とりあえず友達として付き合って欲しいな。休みの日は一緒に出かけたり、ごはん食べたり」
「……はい」
 博人の腕がようやく離れた。携帯電話を持った彼は立ち上がると、それをポケットへ入れる。俊治が尋ねる前に、彼は携帯電話をどうするのか説明してくれた。
「これは俺があずかるね。話をつけておくから、もう何も心配しなくていいよ」
 軽く頭をなでられ、俊治は顔を上げた。
「でも」
「いいから。当事者が入らないほうがいいこともあるよ」
 博人はそう言ったが、本当は、金で解決できることは大きな問題じゃない、と言おうとしていた。だが、金で縛りたいわけではなかったから、そうは言わなかった。
「バイト、ここから通うなら、駅から遠いし、車、出してもらおうか? 今日は荷物とか取りに行こうか?」
「あ」
 オーナーのこととクビになったことは言っていない。俊治は一瞬だけ考えて、辞めたと告げた。
「そう」
 博人は深く突っ込まずに頷いてくれる。
「だから、あの、部屋も出ないといけなくて、荷物、それだけなんです」
 紙袋を指差すと、博人が驚く。
「何だ、じゃあ、やっぱり一緒に暮らそう?」
「ダメです。俺、さっきも話した通り、片づけられないし」
「ハウスキーピングを週二回入れるよ」
「料理もできないし」
「俺がするよ」
「や、家賃とか、博人さんが住むような家は、折半してもきっと払えません」
「家賃はいらないから、俺だけのバーテンダーになって、おいしいお酒を入れて欲しいな」
「博人さん……」
 俊治は他に何か一緒に暮らせない理由を考えたが、何も出てこなかった。博人に言葉で勝つのは難しいのかもしれない。
「博人さん、恋人、できなくなっちゃいますよ?」
「現在進行形で口説いてるのに折れないね」
 ほほ笑まれて、俊治は視線を交わした。無理強いは確かにしていないが、博人の言葉は刺を隠したバラみたいだ。
「家が決まるまで、ここ借りないといけないなぁ。とりあえず一ヶ月って言ってあるけど」
 その言葉が決定打だった。家が決まるまでインペリアルスイートルームに泊まると言われて、俊治はテーブルの上から手ごろな部屋を探すしかなかった。

 いくつかの物件を見て回り、引っ越しを完了するまで、結局一ヶ月半ほどかかってしまい、その間、二人はホテル暮らしだった。俊治はタワーマンションの高層階ばかり勧めてくる管理会社の担当に辟易してしまい、いちばん間取りが妥当で、料金も手ごろなデザイナーズマンションを候補にした。博人は俊治がどの家を選んでも、何も言う気はなかったらしく、控えめにこれがいいと思う、と言ったところ、すぐに電話をしてしまった。
 博人にとってその一ヶ月半はとても忙しかったのではないかと俊治は考えている。家のことだけではなく、透へも連絡を取ったはずだ。いったいどんな方法で何をしたのか、俊治にはまったく分からなかった。
 博人は新しい携帯電話をくれた。そして、もう何にも煩わされなくて済むよ、と言ってくれた。具体的な言葉が欲しくて、俊治が写真のことを聞くと、博人は、「データから処分させてもらったから、大丈夫」と答えた。いつも、してもらってばかりで申し訳なく思ったものの、博人がしてくれたなら、本当に大丈夫なんだろうと俊治は安堵した。

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