ひかりのあめ22 | ナノ





ひかりのあめ22

 ベッドから下りた俊治は、間取り図を一枚手にして、それを眺める。博人から言葉をもらっても、現実味がない。どう考えても、自分は博人の負担にしかならない。
 俊治はソファのそばにある紙袋の中から、電源を切っている携帯電話を取り出した。手の中でもてあそんだ後、電源ボタンを長押しする。必要とされているのか、確認したいだけだ。透の元へも、オーナーの元へも行くつもりはない。届いていたメールを開くと、添付された写真が展開された。
 胸がきりきりと痛むのを感じながら、未開封のメールをどんどん開いていく。男達との乱交写真が添付されていた。開いても開いても、終わらない。俊治は目を擦ったが、あふれる涙が止まることはなく、ソファの前に座り込む。何度も変わらなきゃ、と思うのに、変わることができない。
 最新のメールには件名が入っていた。英語で「おまえの価値」と書いてあり、精液で汚れた自分がゴミ袋と一緒に写っている。写真にも英語で「ゴミ」と書かれていた。手の中から携帯電話が落ちていく。
 博人と一緒に住んだら、片づけができない人間だと知られてしまう。そのうち、彼の家をゴミだらけにして、自分の父親が母親を捨てたみたいに、彼から捨てられてしまう。

 声を殺して泣いていると、目の前がかげった。寝ているはずの博人が、俊治の前にしゃがみ込む。長い指先が携帯電話を取り上げた。博人は携帯に表示されている写真を見た。それから、携帯電話をソファに置いて、泣いている俊治の肩をつかむ。
 何か言われるのではないかと、俊治は怯えていた。だが、博人は何も言わず、ただ体を抱き締めてくれた。抱き締めて、背中や髪を優しくなでてくれるから、俊治は今までこらえていたものを抑えられず、大声で泣いた。
 長い時間ではなかったが、博人は俊治が泣いている間も、泣きやんでからも、ずっと背中をさすってくれた。嗚咽がおさまる頃、俊治はとつとつと、話をした。すべて話し終わると、博人は俊治の左の頬へキスをする。
「まだあった。勇気があるところも好きだな」
 話してくれてありがとう、と続けて、博人はまたキスをくれる。俊治は予想と異なる反応をした彼に、驚いていた。
「嫌にならないですか?」
「え? 嫌って、俊治君を嫌いにならないかってこと?」
 頷くと、博人も驚いた顔をした。
「ごめん、軽く見ているつもりはないけど、そんなことで俊治君のことを嫌いになんかならないよ」
 疑問が表情に出ていたのか、博人は思案した後、彼の生い立ちを話した。
「俊治君は俺が孤児だったって言ったら、俺のこと嫌いになる?」
 否定すると、博人は笑みを見せた。
「そうだよね。環境とか外見とか収入とか、俺の周囲には、変わってしまう価値観で判断する人間ばっかりでさ、それに振り回されてる」
 博人の腕がぎゅっと俊治を抱き締めた。
「俺は貧しくて、頭はよくなかった。けんかも弱くて、学校じゃ、落ちこぼれのいじめられっ子だったよ。何とか高校まで通って、勉強して、留学して、やっと今の状態になった。両親がいないことをつつかれたり、挫折したり、絶望したり、そのたびに這い上がれって言い聞かせてきた」
 俊治は博人の優しさがどこからきたのか分かった気がした。彼は最初からすべてを持っていたわけではない。引け目と偏見の中にいたからこその気づかいだった。
「博人さん」
 俊治はある決意を込めて博人を見つめる。
「俺は博人さんのこと好きだけど、きっと俺の存在は博人さんを脅かしたり、おとしめたりすると思うんです。だから、一緒にはいられません」

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