ひかりのあめ20 | ナノ





ひかりのあめ20

 博人が透やオーナーのように、もっと分かりやすく自分を使ってくれる人間だったら、楽になることができるのに、と思う。だが、彼は俊治が今まで体験したことのないような態度や心づかいで接してくる。今も、自分程度の人間を力で押さえつけて犯すことは簡単なのに、彼の瞳はまったく欲情の色を帯びず、ただ心配そうな色合いだけを見せている。
 俊治は居心地が悪くなった。何かしてもらったら、こちらも何かしないといけないと思う。何かを差し出さなければ、捨てられてしまうと思う。捨てられることが怖くて、博人の言葉を疑う自分がいた。
 呼びかけておいて、話をしない俊治の頭を軽くなでた博人は、立ち上がってミニバーのほうへ行った。夜景を眺めながら、しばらくうとうとしていると、オレンジジュースとサンドイッチが運ばれてくる。博人はロックグラスを片手に持っていた。
「それ、何ですか?」
「ハーパーのロックだよ。飲む?」
 博人からロックグラスを受け取った俊治は、一口だけ飲んだ。喉を通った後に残る香ばしさに、もう一口だけ飲んでから、博人へ返した。
「俺……くさいですか?」
 馬鹿げた質問をしている、と俊治は思ったが、アルコールで湿った舌は驚くほどよく言葉を紡いだ。
「くさい……きたない……ゴミみたい……こんな、おれ、こいびとなん……おれは」
 金づるで性欲処理くらいがちょうどいい。
 そこまで言えたかは分からない。体とまぶたが異常に重くて、俊治は闇の中に光る星を見ながら、目を閉じた。

 目が覚めたのは昼を回ってからだった。俊治は一人では広すぎるベッドへ寝かされていた。
 同じサイズのベッドが隣にあり、シーツが乱れていることから、博人が寝ていたのだと分かる。だが、彼の姿はなかった。
 リビングへ向かうとテーブルの上にメモが置いてあった。昼には戻ってくると書かれている。スペアのルームキーもあり、何か食べたかったら、ルームサービスでも、ホテル内のレストランでも利用するようにとあった。
 俊治はひとまずバスルームへ行き、顔を洗って歯をみがいた。博人が言った通り、顔の腫れはひいている。
 ガラス張りの浴室を一瞥した俊治は、シャワーを浴びるかどうかで迷っていた。昨日は汗をかいていて、どう考えても体を洗ったほうがいいと思うが、着る服がない。
「あ」
 自分が持ってきていた紙袋の中に、まだ着ることができそうな衣類が入っている。俊治はリビングへ戻り、窓際のソファを確認した。昨日、置いた場所に、紙袋はちゃんとあった。
 中から服を取り出して、携帯電話を握る。電源を入れたくなった。必要とされていると感じたくなった。
 ピーと電子音が鳴り、ラフな格好をした博人が入ってくる。彼は小脇にラップトップや書類を抱えていた。
「おはよう、俊治君」
 いつもスーツ姿を見ているせいか、ラフな格好の博人は不思議な感じがした。正確な年齢は知らないが、一回りは離れているはずだ。
「シャワー? 終わったら、お昼、食べようか?」
 ワークスペースとして別になっている寝室の隣の部屋へ、博人が持っていたものを置いてくる。俊治は頷いて、シャワーを浴びるため、バスルームへ向かった。
 髪を拭いた後、リビングへ戻ると、大きなテーブルの上に書類を広げている博人が視線を上げた。
「あぁ、俊治君。ちゃんとドライヤーで乾かさないと」
 バスルームの前にある洗面台へ連れていかれ、博人が備えつけの棚を開けてドライヤーを取り出す。鏡の中の博人が笑った。彼はドライヤーのスイッチを入れると、俊治の濡れた髪を乾かし始める。

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