ひかりのあめ12 | ナノ





ひかりのあめ12

 グレン・オードは飲みやすいウィスキーだ。俊治はアルコールに強いほうではないが、嫌いでもないため、博人の勧めたグレン・オードを味わいながら飲んだ。ただ、空腹だったから、最初の一口は強烈に腹へ響いた。
「博人さん、お菓子、食べていいですか?」
 買ってきていたお菓子をコンビニ袋から取り出す。
「いいよ。お腹、減ってるの?」
「はい」
 博人は冷蔵庫へ行き、中からタッパーを持ってきた。
「オイルサーディンですか?」
「うん。自家製」
 皿に並べた後、博人が箸と一緒にカウンターテーブルへ置いてくれた。
「自家製?」
 火を使う料理すらできない俊治には、オイルサーディンを作った博人が天才のように思えた。彼は冷蔵庫の中から茹でておいたパスタを取り出し、大根とツナのパスタを作ってくれる。その手早さに俊治は感嘆の声も上げられず、何とか礼だけ言って、目の前のパスタとオイルサーディンを食べた。
「俊治君、おいしそうに食べるから、作りがいがあるなぁ」
 いつの間にか隣のスツールに座っていた博人が笑みをこぼした。
「本当においしいです。お店できますよ。俺、こんなに料理上手な人に初めて会いました。やっぱり、できる人は何でも器用にこなしますね」
 グレン・オードの横に用意してあった水を一口飲んで、俊治は頭を下げた。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
 その後、様々なモルトウィスキーを試飲しながら、俊治は博人の日常を聞いた。博人は仕事が忙しく、朝以外はほとんど外食になってしまうが、ストレス発散もかねて、時々、料理をするそうだ。
 初めは失敗ばかりしていたが、そのうち凝ったものも作る余裕ができて、休みの日はほとんど料理に費やしているらしい。週のうち、三日分ほどを作り置きしたり、会社へ持参して食べたりするようになったと話してくれた。
「俺、包丁もまな板も鍋も、全然使ったことないです」
 俊治は話ながら、自分が酔っていることを自覚した。頬が熱い。断ろうとしたのに、博人がロックグラスへ琥珀色の液体を注いだ。
「ハーフロックにしてもいいですか?」
「もちろん」
 博人はしっかりとした足取りでキッチンへ行き、ミネラルウォーターのペットボトルを持ってきた。
「ありがとうございます」
 俊治は危うげな手つきで、それを受け取ったものの、力が入らず、キャップが回せなかった。博人は笑いながら、ペットボトルを開けて、少し多めに注いでくれる。
「俊治君、最近、体調不良が続いてるけど、大丈夫? 何か困ってることでもあるの?」
 博人の聞き方に、俊治は先生みたいだと思った。だが、彼が先生ではなく、職業としては弁護士だったと思い出す。
「別に、ありません」
 俊治は視線を落として言った後、今の言い方は冷たく聞こえたかもしれないと思った。せっかく心配してくれたのに。そう思い直して、俊治は友達が、と切り出した。
 たとえ仮定でも、いつもの俊治ならそんな話はしなかった。ただアルコールに酔ったのと、博人に嫌われたくないと思い、友達という設定で自分の話をした。
「その男と縁を切れないの? 俺は専門外だけど、知り合いの弁護士を紹介しようか?」
 博人に見つめられて、俊治はロックグラスへ手を伸ばした。薄くなっているグレン・オードを飲み干して、俊治は博人を見つめる。
「だって、透のこと、放っておけない……」
 俊治の体がスツールから落ちそうになる。博人が支えてくれた。俊治は力の入らない体とぼんやりとした頭で、自分が今どこで何を話しているのか考えた。体を支えてくれるのは誰だろう。甘いホワイトムスクの香りに目を閉じると、体が浮遊したような不思議な感覚に包まれた。

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