ひかりのあめ11 | ナノ





ひかりのあめ11

 部屋の近くのコンビニでスナック菓子を買った俊治は、大通りを抜けて部屋へ帰ろうとしていた。俊治は二十四時までバーで働いて、二十四時入りと交代した。八時間で働いているのは俊治だけで、他のアルバイト達はたいてい六時間までしか入らない。日曜の夜だからか、少し空いていた。俊治にとっては忙しいくらいが没頭できていいが、最近、体調不良気味のため、今夜は楽ができた。
 十五分ほどで部屋まで着く距離を、俊治はゆっくりと歩いていた。背後で車がパッシングしていたが、対向車にでも合図しているのだろうと思い、特に振り返らず歩いた。
「俊治君!」
 路肩に寄った車の窓が開き、博人が顔を見せる。
「博人さん?」
 シルバーの外車に乗った博人が笑みをこぼす。
「今、帰り?」
「はい」
「俺も」
「日曜日ですけど……」
「休日出勤してた。乗って。明日、というか、もう今日だけど、休みだよね?」
「はい。でも、いいです」
 俊治は何となく高級外車の中を汚しそうで、中に座ることを考えられなかった。
「俺の家、すぐそこなんです」
 歩いて帰れる距離だと言いたくて、そう言ったら、博人はまた、「俺も」と言って笑った。
「俺の家もそこなの。乗って」
 あまり話が噛み合ってないなぁ、と思いながらも、俊治はとりあえず、道路へ下りて右側のフロントドアを開けた。
「俺の服、汚いですよ?」
「分かった。じゃ、脱いでから乗って」
 俊治が笑う前に博人が笑い出す。俊治はつられて笑いながら、シートベルトを締めた。
「それ、お菓子?」
「はい」
 静かに走り出した車は大通りを左へ曲がって行く。
「あ、俺の部屋は……」
 反対方向に曲がったため、俊治は慌てて博人を見た。彼はまっすぐ前を見ている。
「一緒に飲もう? 最近、水曜にいなかったから、何だか話し足りない気がして。うしろ姿ですぐ分かったよ」
 俊治は博人の年齢を知らないが、彼の誘い方に何も言い返せなかった。こんなふうに上手に誘われたのは初めてだった。それだけ彼が慣れているような気がして、安心している自分と、焦っている自分がいる。
 今までなら、ちゃんと断れた。地下駐車場に入る前に見たタワーマンションは、市内でいちばん有名な高級マンションだった。オーナーにばれたら、と考えている自分と、別に寝るわけではない、と言い聞かせている自分がいる。それに、今夜は透が来る可能性が高かった。部屋で透を待つべきだと思う自分と、また男達の相手をするのは嫌だと泣いている自分がいる。
「こっち」
 俊治は自分の足で歩いているのかさえ不確かなまま、呼ばれるままにエレベーターへ乗り込む。博人が最上階のボタンを押した。エレベーターの扉が開くと、彼が先に出る。人感センサーでもあるのか、照明がついた。彼がタッチパネルで暗証番号を入力すると、おそらく玄関につながっていると思われるドアが開いた。
 ショールームのように生活感のない部屋に見えたが、実際にはリビングのテーブルの上に今朝、置きっ放しにしたのか、新聞やコーヒーカップがあった。リビングの奥のキッチンはカウンターキッチンになっており、カウンターの上に吊り棚がある。
「うわぁ……モルトウィスキーが好きなんですか?」
 吊り棚に並んでいるウィスキーボトルのラベルを見て、俊治が尋ねると、博人がカウンターの裏側に回った。彼はスーツの上着を脱ぎ、シャツの袖を上げると、俊治にスツールへ座るよう促す。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがいたしましょう?」
 博人の言葉に俊治は笑った。
「オススメはありますか?」
「ラフロイグと言いたいところだけど、俊治君にはグレン・オードかな?」
 博人は氷を取り出し、ロックグラスへ入れると、グレン・オードをワンショット程度注いでくれた。飲みやすそうなアーモンドの香りが広がる。

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