ひかりのあめ8 | ナノ





ひかりのあめ8

 昨日は何とか出勤したが、水曜に日付が変わってからは熱が上がり、帰り際にオーナーから休めと言われた。今日は博人が来店する日だ。俊治は出勤したかったが、皆に風邪をうつしてもいけないと考え直し、家で大人しくすることにした。
 昼過ぎにインターホンが鳴り、こたつ布団の中から頭だけを動かした。透だろうか。今日は無理だと言うために、俊治は這い出して玄関へ行った。
「顔色、悪すぎ」
 扉の向こうに立っていたのはオーナーだった。スーパーの袋の中にはスポーツ飲料やレトルトのお粥、ゼリーやプリンが入っていた。
「どうせ金欠だろう? 薬も買ってきたから飲め」
 俊治は泣きそうになった。こんなふうに自分を心配してくれる存在は初めてだ。
「……何でこっちにこたつ持ってきてんだ?」
 狭いダイニングキッチンを抜けて、洋間へ行ったオーナーは、汚れたじゅうたんを見た。
「おまえ、どっかケガしてんのか?」
 俊治が首を横に振ると、オーナーは何も言わずに袋の中のものをテーブルへ並べた。
「何、食べる?」
「ゼリーがいいです」
 オーナーはゼリーだけ残して、あとは冷蔵庫へしまう。数少ない食器の中からスプーンを見つけて、彼はそれを俊治に渡してくれた。
「それ食べたら、これな? 三錠」
「はい」
 ゆっくり食べていると、オーナーがじゅうたんを巻き始める。
「洗濯してやろう。それと、いい加減、布団買えよ。こたつ布団なんかに寝てたら、疲れ取れないぞ」
「はい」
 薬を飲んだ後、フローリングの床へ横になると、すぐに眠たくなった。オーナーがじゅうたんと転がっている衣服を集めて洗濯しようとしている。そんなことしなくていいですよ、と言おうとしたが、睡魔がひどくて、俊治は自分が目を開けているのかどうかも分からなくなった。

 温かさとコーヒーの香りで目を開けた俊治は、ベッドの上にいる自分に驚いた。ベッドもブルーのカーテンも知っている。ベッドから下りた俊治は寝室から出た。トイレの前を通り、キッチンへ行くと、オーナーがコーヒーを飲みながら新聞をめくっていた。
「おはようございます」
「おう。だいぶ顔色ましになったな。シャワー浴びてくるか?」
「はい」
 俊治は何度かオーナーの部屋に泊まったことがある。オーナーは俊治が働いているバーの他にも店を持っていると聞いたことがあった。シャワールームは窓から東に広がる海が見える。今日も晴れているため、青い海が見えた。水平線の辺りは反射できらきらと輝いている。
 シャワーを浴びて、用意されていた衣服を着てからダイニングへ向かうと、消化によさそうなお粥がテーブルに置いてあった。
「オーナー、ありがとうございます」
 キッチンに立っていたオーナーへ頭を下げると、彼は笑った。
「体で返して欲しいな……って冗談だ。本気にするな」
 俊治が笑わずに頷いたからか、オーナーは慌ててそう言った。
「俺……」
 俊治は苦笑する。
「何だ?」
「何でもないです」
 オーナーを好きになればよかった。
 その言葉を飲み込み、俊治は、お粥を食べ始める。
「昨日、浅井さんが来て、おまえがいないから残念がってたぞ」
「俺、そんなに寝てたんですか?」
 オーナーはあの日、洗濯物を干してから、眠っている俊治のことを抱えてここまで運んできたらしい。もちろん、車で来ていたようだが、俊治は車に乗せられた記憶もなかった。
「博人さん来てたんですね。あの人、いつも水曜に来ますよね」
 オーナーは俊治の向かいに座ると、ペットボトルからお茶をグラスへ注いだ。

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