ひかりのあめ5 | ナノ





ひかりのあめ5

 俊治はアルバイトを探して、働き出した。給料はすぐに入らないため、父親に頼んで小遣いを前借りした。十七歳の時だった。
 高校卒業と同時に家を出たが、それから三年経っても、俊治と透の関係は変わらない。だが、たとえあの時の言葉が透の気まぐれであっても、俊治は助けてくれた恩を忘れたくなかった。透が来る限り、金を渡す。俊治はそう決めていた。

 水曜は平日の中でも閑散とした夜になる。その日を狙って来るのはたいてい常連ばかりだが、時おり、新しい客が扉を開けて入ってくる。カウンターテーブルのちょうど真ん中に座った新規の客に、俊治はおしぼりを差し出した。
「ありがとう」
 落ち着いた声音の男性客は俊治の左うしろへ視線をやってから、俊治を見た。染めていない髪を短くまとめており、おそらく営業か接客業関係と思われた。
「オススメは?」
 俊治はかすかに笑みを浮かべて、ウィスキーであれば、と前置きしてからお勧めを告げた。彼はほんの少し驚いた顔をした。
「お客様がウィスキー棚を見ていたので、きっとウィスキーから飲むだろうなって思ったんです」
「シュンちゃん、俺の連れにもう一杯」
「はい」
 俊治は軽く視線を落として会釈し、奥のカウンターで飲んでいる常連客に、黒ビールを追加した。
「すみません。ロックにしますか?」
 元の位置に戻り、男性客に確認すると、彼が頷く。注文された飲み物を置いてから、俊治はチャームの準備をした。
「チョコとナッツ、どちらがいいですか?」
「選べるの?」
「水曜だけですけどね」
 男性客はかすかに笑うとチョコレートがいいと言った。俊治はチョコレートを小さな皿に入れて差し出す。
 客足はまばらで終電を過ぎた頃には男性客だけになった。
「貸し切りみたいですね」
 俊治の言葉に彼は周囲を見回す。
「君はいつも一人で店番してるの?」
「いえ、奥に店長がいます。金曜とかは二人体制ですよ」
 俊治は作業台の端から、整理整頓しながら話を続ける。
「お住まいは近くなんですか?」
「あぁ……さっきも思ったけど、鋭いね、洞察力」
「そんなことありません」
 メジャーカップを洗い、グラスウォッシャーで洗い物を済ませてから、先に洗っていたグラスを拭きながらみがく。
「若く見えるけど、長いの?」
「いえ。もうすぐ一年くらいです」
「そう。近くにこんないい店があるなんて知らなかった。また来るよ」
 男性客が立ち上がったので、俊治はカウンターの右から出て、レジの前に立った。
「名刺を渡してもいいかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
 俊治もショップカードを一枚差し出す。彼を送り出した後、カウンターへ戻って名刺を見た。聞いたことのないアルファベットの会社名だ。俊治は名刺を裏にして、そこへ彼の特徴と最初に飲んだウィスキーの名前を書いた。

 朝焼けの中、家に帰った俊治はロッカーから持ち帰った名刺ホルダーをこたつテーブルへ置いた。財布の中からもらったばかりの名刺を取り出し、携帯電話を使って男性客の会社を検索してみる。顧問投資会社の名前が出てきたが、彼の働いてる会社の母体はどうやらアメリカにある証券会社のようだった。
「浅井博人(アサイヒロト)さん。すごいなぁ。俺、証券って何かも分かんない」
 俊治は得た情報を名刺の裏に書いてから、名刺ホルダーへ名刺を入れた。まだ眠くはならず、とりあえず、コンビニの袋に入ったゴミを集めて隅へ置いてみる。この間、オーナーが洗濯機の回し方をメモに書いてくれた。それを探そうと衣服を端へと寄せていると、だんだん体がだるくなり、俊治はこたつ布団の中へ入った。

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