ひかりのあめ2 | ナノ





ひかりのあめ2

 ロッカールームで下着だけになった俊治は、自分のロッカーを開けて、クリーニング済みの制服を取り出した。真っ白なシャツに腕を通していると、オーナーがドアを開けて顔をのぞかせる。
「シュン、おまえ、壊れたポアラーどこに置いた?」
「焼酎棚のとこです」
 振り向かずにボタンをとめていると、いきなりうしろから抱き締められる。オーナーの右手がシャツの間から太股をなでた。
「オーナー、あと三十分でオープンですよ。礼(レイ)も来ます」
 オーナーは聞く耳持たずといった感じで、そのままひざまずいたかと思うと、俊治の内股へ手を入れてきた。
「っひゃ」
 俊治はその手をつかんで引き離す。
「オーナーっ」
「ごめん、ごめん。シャツの間から伸びてる足がおいしそうでつい、な?」
 立ち上がったオーナーが笑いながら、俊治の髪をなでる。
「よし、髪、やっとくか」
 俊治がパンツをはき終わると、もう一人のアルバイトが入ってくる。金曜はレギュラー二人ずつで入るが、暇な曜日は一人のこともある。
 店内はカウンター席が八席とテーブル席が三つだけのこじんまりとした造りだ。だが、アルコールの種類は多く、カクテルはもちろん日本酒や焼酎が豊富にそろえてある。
 客層はどちらかといえば落ち着いた世代で、時おり、俊治と同じくらいの若い人間も出入りした。
 オーナーは俊治の前髪を七、三で分けると、ムースやワックスを使ってまとめてくれる。隠れていた瞳が現れると、俊治は鏡を見ながら黒のネクタイを結んだ。
「おはようございまーす」
 今夜入っているもう一人のレギュラーアルバイトが元気よくドアを開けた。
「おぉ、レイちゃん、おはよう」
 オーナーは軽く手を上げて、「ポアラー」とつぶやいた。俊治は小さく息を吐いて、「焼酎の棚です」と答える。それから、気を取り直して、礼へあいさつする。
 オーナーが出て行った後、俊治はロッカーから道具を取り出した。丸椅子へ腰かけて、道具一式をポケットへ入れていく。礼が残り十分の内の三分を使って、制服へと着替える。俊治もベストを羽織り、黒のエプロンをウェストより少し低い位置で合わせて結んだ。ロッカーの鍵をかけていると、隣で礼がつぶやいた。
「今日、オーナーか」
 礼は店長に気がある。たいていオーナーがいると店長は休みだ。彼の落胆が分かり、俊治は苦笑した。

 バーは目抜き通りから外れた路上にある。知っている人でなければ、看板すら見落としそうだが、平日でもそれなりに客が入る。まして金曜であれば、カップルだったり、友達連れだったりで、カウンター席も賑わう。
 俊治は八人の客の相手をしながら、テーブル客の注文を取ってきて、慌てている礼の仕事をフォローした。
 前半のピークは二十時から二十一時半頃になる。後半は終電がなくなる時間だ。俊治はどの時間帯も同じテンションで仕事を続けた。勤続年数でいえば、俊治以上に長いアルバイトもいた。だが、他のアルバイトを差し置いて、定休日以外シフトに入れてもらえるのは俊治の仕事ぶりが評価されているからだった。
 オーナーの言葉で言えば、俊治はこの仕事に向いていた。積極的な営業が必要なわけではないが、さりげない営業は必要だ。そこにとびきりの笑顔はいらない。俊治は話し上手ではなく聞き上手だった。そして、事実として、平日の夜はよく俊治目当ての客が一人でやってくる。おいしい酒を飲みながら、自慢話や愚痴を聞いてもらうのは、おそらくいいストレス解消になるのだろう。

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